□話をしよう
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話をしよう。
目と目でわかり合ってしまったら、声が聞けないから。



ディーノの泊まるホテル。
マフィアの泊まるホテルなんて大層ご立派なものかと思っていた雲雀は柄にもなく拍子抜けした。
街から外れた中心部に聳えるビル。その片隅にある目立たないホテルが彼の寝床だという。
ワンフロア貸切、というのは想定の範囲内だった。

事の発端は屋上での「授業」を終えたディーノの一言だった。血の滴る雲雀の手を掴み太陽を背に笑ったのだ。
「なぁ、腹すかねぇ?」
赤く染まる髪の毛に不釣り合いすぎる気の抜けた声。
あんなにも激しく体を動かしたにも関わらず、目の前の男はヘラヘラと屈託のない笑みを浮かべ雲雀に手を差し伸べていた。
それがあまりにも気に食わず一度は断ったものの、食事への誘いは修行の後には決まったセリフかのように紡がれ、とうとう面倒になった今日、ディーノに連れられこのホテルへ足を踏み入れたのだ。
ホテルの一室、汚い訳ではないが綺麗な訳でもない部屋。
この人には似合わない、というのが雲雀の正直な感想だった。
「なぁ、何食う?和食?洋食?っても、たいしたメニューはねぇけどな」
大きなベッドに腰をかけてメニュー表に目を通す。埃っぽいままシャワーも浴びてないからディーノの座る部分だけ薄くシーツが汚れていた。それを気にする様子もなくメニュー表と雲雀を交互に見てから昼間、彼が背にした太陽のような笑顔を少年に向けた。
「なあ、恭弥はきっと和食好きだろ?そんな気がすんだよなぁ」
外れではない。
肯定のしるしとして雲雀は黙ったままディーノから目を逸らした。相手は必ずそれを肯定ととるだろう自信がある。


「恭弥、な、答えて」


和食のが好き?と繰り返し聞いてくる。その顔は自信に満ちていて、誰がみても確信犯的なものを漂わせていた。
ゆっくりと雲雀がディーノへ目を向けると真っ直ぐ、自分を見る鳶色の目とぶつかりあい、少年の眉は僅かにしかめられる。
「わかってるなら聞くな」
発した台詞は辛辣なものであった筈なのに笑顔を振りまくディーノの笑顔は深くなり、軽やかに腰を上げて電話へと向う。
途中、雲雀の横を通った時にその身長に合わせて身を屈め、彼は小さく囁いた。


「こえ、聞きたかったんだよ」


雲雀は変わらず眉を寄せ、無言のまま顔を逸らした。




END
 

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