□ゼロの痛み
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右手は赤く腫れている。骨はいかれていないだろう。なのに全く動かない役立たず。
役立たずは死ねと、幾度となく口にしたその言葉を今、自分自身に突き立ててやりたいのに。薄い唇は小さく呼吸を繰り返すしか出来ない。
情けなく仰向けに転がった体。ゆっくりと横を向くとこの体を横たえた張本人が、相も変わらない太陽の笑顔を向けていた。
「これが、今の実力だ。恭弥」
気安く名前を呼ばないで。視線が絡まると跳ね馬と呼ばれていたその男は鮮血を滲ませる唇の端に親指を当てて、軽く拭った。喋り難かったのだろうけど、新たな血が再びその口元を赤く染める。
僕が当てた攻撃は、このひとつだけだった。



この、ひとつだけだった!
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