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□第6話
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机に片頬を預けながら、ぼんやりそれを見つめていた。
丁寧に伸ばされたのだろう。平面からほんの少し隆起したブタのアクセサリーは光に反射してきらきらと輝いている。
亮は、わずかばかりの冷気を感じるそれを指先で挟むようにして摘むと、こつこつと机に打ち付けた。

割に良い音だ。

いつの間にか夢中になって、目の前の敵に攻撃するかのように一心腐乱に格闘を繰り広げていると、胃が縮まったのか、ぐぅと腹が鳴る。


無理もない。
今朝はうっかり寝過ごし、朝ご飯を食べそびれてしまったのだから。

運よく制服のポケットに入っていたチョコレートは、溶けかけていて包みを開くと銀紙に張り付いてべとべとになっていた。
それでもないよりはマシかと口に入れてみたものの、一時の満足感は微々たるもので、空腹を助長させるだけだった。


亮が長い長いため息をつくと、のんびりとした声が頭上から降ってくる。


「我慢しないで、先に食べてればいいのに」


ー 武乃だ。
亮はふるふると首を振り、頑として受け入れようとしない。

大体、武乃だって自分と同じく待ちぼうけを喰らっているのだ。
人のことをどうこう言われる筋合いはない。


ふと、教室のドアが開き、生徒が一人、中へと入ってきた。

ロールプレイングゲームならばレアキャラ。
攻撃力は低いが生命力が強く、おまけに知能が高く博識であるためか、やたら回復技には手慣れている。
しかも遭遇率は低く、逃げ足も格段に速い。


我ながら良い例えだと自画自賛する亮を余所に、昂輝は自分に注がれる視線をもろともせず、こちらに歩み寄ってくる。

ここのところ、昂輝は昼になると毎日欠かさず亮たちのところに来ていた。

三人で一緒にお昼を食べることが習慣化するようになったのだが、何せ昂輝は特進科だ。
普通科より授業が長引くのはもちろんのこと、隔離された校舎からここまでたどり着くのには少々の時間を要する。

故に昂輝が授業を終えるまで、他二人はすきっ腹を抑えつつ教室で待機しているのだった。

昂輝の存在に、最初の頃こそクラスメートたちは動揺していた。
今も昂輝が教室に入ってくると、生徒同士で何気ない視線が交わされた後、ちらりと昂輝を盗み見て様子を伺っている。
これでも不躾に凝視されたりざわめきが広がったりすることはなく、いくらかましになった方だ。

時間が経つにつれ、クラスメートたちは思い出したかのように自分たちの会話に戻っていく。

そのため昂輝はあたかもここが定位置であるかのように錯覚され、その場に上手く溶け込むことができるのだ。
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