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□第3話
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夕暮れはどんな色だっただろう。


揺れるすすきと頬を伝う涙。
苦しくて切なくて。
大切なものがなくなってしまう恐怖。
目を逸らすこともできず、俯くこともできず、ただその現実に立ち竦んでいる。

『う…、ひっく…たけちゃ…たけちゃん……』

失ってしまった悲しみも、一緒になくなってしまえばいいのに。

やっと見つけた光。
淡い影となり、揺らいで消えた。
“ありきたり”を“いつも”に変えてくれた影。
夕暮れは、光を閉ざす前兆だった。

『なんで?』

何かを投げ捨てるように手を振り払う。けれど、その手は色を掠めるのではなく、誰かの胸へ、静かに収まった。

だから顔を上げて、救いを求めた。

『ひっく…、たけちゃん…いなくな…ちゃ…』
『とおる、とおる』

名前を呼ばれたのは初めてだった。
彼にはずっと嫌われていると思っていたし、自分も彼を嫌っていた。

『だいじょうぶ。おれがずっとそばにいてやる』

素っ気なく交わされた睦言。
仕方ないな、と。
耳元で囁く声がする。

『もう泣くなよ』

自分の頭を撫でてくれるその手はとても温かかった。
もしかしたら、自分はずっとその手を待っていたのかもしれない。
にこりと微笑むと、彼は目を逸らし、すすきの合間に見え隠れする夕日を見据えた。


『やさしい色、だ』
『うん』


その時から、夕暮れは記憶の中に息を潜める特別な色になった。
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