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□第4話
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急に暑くなったかと思えば、両手をかえすように土砂降りの雨が降る。
空気はじわりと肌に吸い付き、湿気と蒸し暑さで不快極まりないこの時期。
何をするでもなくただ机に伏せっていると、女教師の気怠げな声が耳を刺激する。

中間テスト。

その単語を聞くだけで不快が倍増するのは、何も自分だけではないはずだ。
亮は机上に伏せたままのの字を書き、うなだれる。
こんな時期にテストだなんて、全く学校というものは分かっちゃいない。
なにせ机に座るだけでじわじわむしむし。
気晴らしに体勢を変えれば、服と地肌が擦れ、むず痒さに見回れる。
そんな悪循環ばかりなのだから、梅雨にテストだなんて、ほとんど自殺行為に等しい。

「……って、訳だから、赤点取らない程度に苦しめ」

愚民ども。
と、付きそうなくらい酷い言い草だった。
この女教師、三浦葉月ことはーちゃん(クラスメイトはたいてい彼女のことをそう呼ぶ)は、亮のクラス担任だ。
担任と言っても放任主義なところが多く、たまのLHRの時間に現れたかと思えば、連絡事項だけを述べ、後は自由時間。
職員室には戻らずちゃっかりそこに居座る訳はこうだ。

だって校長に目つけられるの面倒だから。

その、下手したら半面教師ともとれる態度は、他の教師からしてみれば眉根を寄せてしまうものだったが、生徒からの受けは良い。


「はーちゃん、それ全然応援されてる感がねぇよ」


一人の生徒が反論すると、次々に野次が飛び交う。


「当たり前。学生の本文は挫折と苦しみって、教科書に書いてなかったか?」


そんなことも知らないのかと鼻で笑う葉月。
そこで勉強しろよ、とさりげなく付け加える所が、彼女なりの優しさだろう。
ふと、頭を撫でる感触。
見上げれば、葉月がそこに立ち亮を見つめていた。
彼女は亮と目が合うと、満足したように頷き、亮と同じように机に伏せっている生徒の所へと向かう。
もちろん、まだ元気な生徒たちと会話をしながらなので、亮が矢面になることはない。
そんな優しさに背中を押され、亮が顔を上げた途端、ふらふらと宙を舞い、飛行機が飛んできた。
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