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□第5話
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怒涛の中間テストが終わり、あれだけ鬱陶しかった梅雨も明けた。
蝉の囀りが、遠慮がちに初夏の訪れを告げる。
おろしたての半袖の開襟シャツはまだ糊がきいていて真新しい感じもするが、夏本番に向け、学校全体が浮足立って見える。

今回のテストはどれも上出来だ。
まだ返却すらされていないが、亮は確信を持っている。
その余韻に浸り腑抜けた顔をしていると横から鋭く突っ込まれる。

「まだ期末もあるけどな」

先程廊下で偶然一緒になった昂輝だ。
亮は昂輝の瑣事に怯むことなく、昂輝にピースサインを送り、へっちゃらだと笑い飛ばす。

「大丈夫。次も余裕だから」

と、言うのも全て昂輝のお陰なのだが。
あの日からテスト前日までの一週間、亮は昂輝と勉強することになった。
正確には亮が昂輝に勉強を教えてもらうことになった。

あの日、亮は帰宅してからすぐ昂輝にメールを打った。
ただそこにあるだけのメモリが侘しく感じたのもあるが、やはりこちらからメールを送り、互いにアドレスを交換すべきだと思ったのだ。
すると昂輝からの返信に自身の無礼な態度を謝罪する(亮は、彼がまだそのことを気にしていたことに驚いた)と共に、勉強会を続行しないかと言う提案が出された。
亮は戸惑ったが、誘いを無下に断ることもできず、そうして次の日も再び勉強会を取り行うことになった。
亮が何度も難問にぶつかる度、昂輝が手ほどきしてくれた。
昂輝の教え方は、本当に上手で分かりやすかった。
さすが秀才、頭のできが違う。
ついつい本音がこぼれると、その度に昂輝は曖昧に笑ってみせた。

「余裕って…なんでそんなに自信満々?」
「え…。だって次もやるだろ、勉強会」

自分はそのつもりでいたのだが、昂輝は違うのだろうか。

「はいはい、分かりました」

昂輝は仕方ないなと言うような感じで、亮の髪の毛をくしゃくしゃに掻き混ぜる。

「うぉっ」

その反動で亮はつんのめり、下を向く。
最近気づいたことだが、昂輝は過剰なスキンシップが多い気がする。
何の前触れもなく唐突にくるので、容赦がない。
今、昂輝はどんな顔をしているのだろう。
下を俯きながら、亮は考える。
声音では飽きれているが、顔が見れないのでそれが本心とは限らない。
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