中編


□遠慮がちな恋
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「…蘭丸が?」


うん、と頷き、武長の隣を歩く乃依は体育の授業を終えて先ほどの蘭丸が体調不良を訴えながらもスナコと二人きりになろうとしていたことを武長に伝えていた。
そんな事よりも武長はスナコの怪我の方を気にしていた。



「それより、スナコちゃんは大丈夫なの?」

「えっとねー、なんだか風邪気味っぽかったよ?ふらふらしてたし……私、スナコちゃんと一緒に帰る!ごめんね、武長くん」



体育が最後の授業でもあったため、皆が帰宅の用意をするなか、既に帰り支度を終えて武長の元へ来ていた乃依は保健室でまだ休んでいると思われるスナコを迎えに行くべく真っ直ぐに保健室へと走ろうとした。
そこへ武長は何を思ったか手を伸ばして乃依の腕を捕らえ引き戻した。
周りからの生暖かいような視線が痛いが武長は構うことなく乃依に「俺も行くよ」と言った。



「それに、スナコちゃんの荷物まとめないと」



先に保健室行ったら手間でしょ。
武長が薄く笑うと乃依は気づいて恥ずかしそうに「そうだったね」と笑いながら俯くのだった。





スナコの帰り支度を済ませ、割と丁寧に書き込まれたノートに感心しながら武長は荷物を持ち、乃依と一緒に保健室へと向かう。
二人とも、蘭丸の事など蚊帳の外だと言わんばかりにスナコの事ばかりを心配していた。

保健室まで向かうまでに少しだけ会話の中に蘭丸の内容があったが、「どうせ授業サボったんだよ」という言われようだった。

笑い合いながら、廊下を進む。すると急に乃依は黙り込み、真剣な表情になる。それに気づき武長も黙る。


「武長くん、」
「どしたの?乃依っち」


真面目な顔しちゃって。武長が乃依の顔を覗き込むが、いつものように照れて距離を置く乃依はそこにはおらず、武長は違和感を感じた。



「乃依っち?」
「…武長くんは、スナコちゃんのことどう思ってる?大切な人?」
「どうって…」



答えが出ない。確かに大切な存在ではあるが、武長にとって答えはそれ以上の存在だった。
身だしなみをキチンとすれば乃依と並ぶぐらい、美しい容姿。それに不器用なりに思いやる心、暖かな手料理…
健康的で充実した私生活を送れるのも彼女のおかげで、武長たちにはかけがえのない存在。
その存在自体に惹かれている自分を認めたくはなかった。自分には恋人である乃依がいる。情けなかった。この答えが彼女を傷つけてしまうかもしれない。

惹かれていることを認めたくはないが、それは確かに惹かれる存在で、大切な人だった。

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