ロング・ストーリー

□序章
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「かあさん」
さっきから何度も呼んでいるが、返事をしてくれない。振り向いてくれることさえしてくれない。
仕方ないから前を向く。時折、嫌になって上を向いたりするが生憎の雨だ。顔に当たると少し痛い。段々と雨が強くなってくる。目が開けられないほどでもないが、風も強い。そして下を向く。すると、見える範囲が自分の足下だけになる。頭に当たるのは、雨のつぶて。それは大して痛くない。だが心が痛い。精神にまでこの痛みが響きそうだ。そう思っていると、段々泣きそうになる。しかしそんな場合ではない。涙など流していても何も変わらない。
気がつくと、歩く速さが段々と遅くなっていた。意識しなくても分かるほどに。無理矢理、歩みを速める。
―頑張れる
そんな気力など無いが、急がなければならない。――前を向く。そして、必死に歩く。
でも。
足が重くて。
とても重くて。
それは母にとっても同じなのだろうか。
それでもぼくらは前に進むんだ。進まなければならないから。進むしか道がないから。
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