ショート・ストーリー

□夏の記憶
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ここは一体どこだろう?
蝉の合唱を耳に焼き付け、修はゆっくり目を覚ました。辺りを見回してみる。
今まで見たこともない窓、覚えのない天井、感じたことのない爽快感。
なんなんだ、このただっ広い『白』の空間は。

「剛!剛!起きたの?」
見知らぬおばさんに肩をゆすられ、どこぞで聞いた覚えのある名前を連呼される。まて、誰だ。
「お前は誰だ。俺は、修なんだ!」
少しキョトンとした後、「お前、何冗談いってんだぃ、あんたはれっきとした白石剛じゃないか!」
と時子は鼻で一笑する。
どうやらここはどこぞの病院らしい。
「俺は白石修だ!!」
「剛なんて知らねぇ!」
自己主張なんて実際役に立たないものだ。
剛なんて知りもしない奴の代わりとして生きていくなんて冗談じゃない!
なんて事も時子には通じない。自分の息子と信じて疑わない。

「剛君が意識を回復させたんだって!どれ、見せてみなさい!」
時子が押したナースコールで、医師が駆け付けてきた。
「剛じゃないって!」
「ちょっと我慢なさい、すぐ終わるから。」
「いて!」
傷が入ってるのか、足に激痛が走った。
「傷こそ治ってはいないものの、もう生活には支障はないでしょう。」
「それは退院させても良いと取っても?」
「そういう事になりますね、奥さん。」

ここで、修の気持ちも分かって欲しい。

彼は、自分の存在意義を否定された上に、自分の知らない所で知らない話を進められている。
「俺、学校いくんか?」
不意に、時子に聞いてみた。「当たり前じゃない!これまで遅れた勉強取り戻さなきゃ!!」

しめた!学校には、俺の事を知ってる奴がいるかも知れない!修は、翌日から剛が通っていた学校に行く事になった。もたろん、剛として。
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