ショート・ストーリー

□夏の記憶
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修が学校についた。
そこは桜木学園、私立の高校だ。
教室を紹介してもらって、その前まで歩いてると、なんだか皆が皆修の事をじろじろ見てる気がする。
「なぁ、アレって・・・」「え?嘘、だって・・・」

剛、お前って結構嫌われてたんだな。
何故か勝ち誇った様な気分になる。
だけど、妙に気に入らない。見られてるのは剛ではなく、修だ。
「お、おはよう、剛君。私、クラスメートの雲雀なんだけど、わかるかしら?」いきなり二つ結びの女が湧いてでた。
さっぱり分からない。
「一応、あなたの幼なじみなんだけど・・・。」
分からない物は分からない。誰だ、お前は。
「やっぱり記憶喪失って噂本当だったのね。」
「じゃ、お前俺の事教えてくれるか。」

一瞬おどろき、雲雀は素早く頷いた。
まったく、こんな早く都合のいい奴が現われてくれるとは。
言った修自身話の展開について行けずとまどっている。後は放課後を待つのみ。
「もう終わったね、屋上いかない?」





「何故貴方は生きてるの?貴方は、誰?」


「はぁ?」

なんて突飛に訳の分からない事を聞いてくるのだろう。何故生きているか?俺は一体誰なのか?
俺自身が聞きたい程だ。

いやいや、俺は白石修だ。他の誰でもない。
何を自分でも馬鹿げた事をぬかしてるのだろう。

「正直に言わせてもらうわ。白石剛君、君はもう死んでいる人間なのよ。」

は?何をこの女は言ってるんだ。俺はここにいるじゃないか。
いや、だから違うんだってば。修は自問自答を繰り返す。

「君は死んでいる。でも、まだこの世にいるのは未練でもあるんじゃなくて?」「待ってくれ、俺は白石修だ!剛じゃない!!」
「まぁ、なんて事!」


静かに時が過ぎていった。雲雀は目を閉じ、深くため息をついた。
「いいえ。貴方はまぎれもなく剛君よ。」
「だから違うって・・・」「じゃあ貴方自身の記憶を言ってみて!」
「簡単だよ、あのなぁ、・・・、あれ?」

記憶が、無い。
何も思い出せないではない、何もないのだ。

オレハ。ダレダ。
オレハ、オレハ・・・!



頭を抱えて、地面に這いつくばっている修に、いや剛に、雲雀は更に追い打ちをかけた。

「あなたは、剛君よ。」

「ちがう!俺は!!」

言い掛けた時、頭の中で走馬灯の様に記憶が割り込んできた。


夏休み初日、雲雀と一緒に海に出掛け、魚を捕ると意気込み、足をつってそのまま・・・ん?雲雀?


違う。アレは男だった。

「ようやく思い出せたか?どうだ、すっきりしたろ」
雲雀の声にようやく自分を取り戻せた剛の体は、もうすでに半透明となっていた。もう後がない。

やはり、俺は剛で、死んでいたのだ。

「あぁ、もう成仏するんだな。冥土の土産に教えてやろう。俺の本名は白石修、お前の双子の弟で、お前を殺した張本人さ。トリカブト、旨かったか?」

どんどん明かされていく真実と比例されて体が消えてゆく。

「お前が未練だったのか、この変態め。」

黙れ、化け物という修の皮肉も聞こえぬまま、剛は消えていった。



今日も蝉は誰かのレクイエムを合唱している。




           完
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