ショート・ストーリー
□縁廻り
1ページ/5ページ
「また会ったね」
不意に男の人の声が響いた。
身長150センチの私は、声がした方を向き、その男の人を見下ろした。
やあ、なんて軽く手を挙げた彼は、車椅子に座っていた。
「…どうも」
伏し目がちに挨拶して、私は少し後ろに下がった。
昼食の下膳が終わった午後12時40分、整形外科病棟休憩室の自販機前。
歩けるようになってからずっと、私は毎日この時刻にここで紅茶のストレートを買う。
彼も毎日この時刻に、ここで同じ飲み物を選ぶ。
示し合わせている訳ではない。
がこんっと音が響き、出てきた紅茶を彼が拾う。
それを見届けた私は、傍のソファーに座った。
ずっと立つのはまだしんどい。
左足と一緒に左腕も骨折してしまった私には、缶のプルトップが開けづらくて仕方がない。
「貸してごらん」
穏やかな声が響いた。
あの男の人が、缶を持ったまま器用に車椅子を近づけてきた。
私は素直に缶を差し出す。
彼は両脚こそギプスで固定されているが、両手には何の怪我も負っていないからだ。
ぷしっと音を立てて、缶が開く。
差し出された缶をお礼を言いながら受け取って、中身の紅茶を一口煽る。
うん、甘い。
.