ショート・ストーリー

□縁廻り
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「また会ったね」

不意に男の人の声が響いた。

身長150センチの私は、声がした方を向き、その男の人を見下ろした。

やあ、なんて軽く手を挙げた彼は、車椅子に座っていた。

「…どうも」

伏し目がちに挨拶して、私は少し後ろに下がった。

昼食の下膳が終わった午後12時40分、整形外科病棟休憩室の自販機前。


歩けるようになってからずっと、私は毎日この時刻にここで紅茶のストレートを買う。

彼も毎日この時刻に、ここで同じ飲み物を選ぶ。


示し合わせている訳ではない。


がこんっと音が響き、出てきた紅茶を彼が拾う。


それを見届けた私は、傍のソファーに座った。

ずっと立つのはまだしんどい。


左足と一緒に左腕も骨折してしまった私には、缶のプルトップが開けづらくて仕方がない。


「貸してごらん」
穏やかな声が響いた。

あの男の人が、缶を持ったまま器用に車椅子を近づけてきた。

私は素直に缶を差し出す。
彼は両脚こそギプスで固定されているが、両手には何の怪我も負っていないからだ。


ぷしっと音を立てて、缶が開く。


差し出された缶をお礼を言いながら受け取って、中身の紅茶を一口煽る。
うん、甘い。


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