ショート・ストーリー

□今日は素晴らしい日
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春風は、中国におりた。


道行く人に聞いてみる。

『貴方にとってよい一日とは?』
道行く人は無視をして通り過ぎていった。
春風は、唖然とした。


私は、貴方方のその絹肌を覆い隠している分厚い布を取り去る様な心地よい暖かさを毎年届けているんだぞ。
それを承知でその行為をしているのか。

承知の筈がないが、春風は不機嫌そうに心の中で悪態を吐いた。


春風は、イギリスへ足を付けた。



ふと周りを見てみる。
そこは牧場で、歳が長い男が声を上げて泣いていた。

春風は考える。
この男ならば、私へ答えを教えてくれるかもしれない。
『老人よ、貴方にとって不幸とはなんですか?』
年老いた男は答えた。

「家内が死んだ、今この瞬間だ。
彼女に先立たれ、もうこれ以上の不幸は私には訪れないだろう。」
『ならば、貴方にとっての幸せとは何だったのです?』

男はその顔とは逆のみずみずしい芝生を細目で見ながら答えた。

『・・・
妻の作ったローストビーフを二人で食べる事だよ。
あいつは料理が苦手でなぁ、“不味いなぁ”とからかっては二人でよく笑ったよ。』




人間は、実に興味深い。
春風はそう感じた。
先程まで死にそうに顔をくしゃくしゃに歪めて泣いていたというのに、今は見知らぬ他人に懐かしそうに顔をくしゃくしゃに歪めて笑っている。


ありがとうと頭を下げ、春風は他の意見を聞きに宙に浮かんだ。








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