ショート・ストーリー

□月のカケラ
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「月ってさぁ、」


幼なじみがもふもふと餅を食べながら唐突に言葉を紡いだ。


「ウサギが餅を作りすぎて出来た産物だと思うのよね。」


幼なじみこと鈴木知恵が言った言葉に、私は乾いた笑いを作った。


「餅でかくない?」

「ウサギが頑張ってるんだよ、現在進行形で」

「じゃ足場もちもちしてんの?」

「そう、トリモチみたいになってて餅を作り続ける運命から逃げ出せないの」

「はは、何それ」


彼女はファンタジーの世界を何とも無気力に話している。


「じゃあさ〜、」

「ん〜?」

「一番最初、足場がない時ってどうやって餅ついたのよ?」


知恵はう〜ん、と小さく唸って、目を半開きにさせて

「私ウサギじゃないから知らねぇ」

と、納得いくような悔しいような答えを導きだした。
否、お前の空想世界ぐらい管理しろよ。



「月ってさぁ、
手が届きそうで届かないんだよねぇ。」


知恵の手が空中を彷徨い始めている、
私はそれを止めようとはせず黙って頷いた。


「でもさぁ、今ウサギが作った餅を私達が食ってるって事は、

月に手を伸ばさなくても既に手に入れてるって事だよねぇ。」



「・・・はは、」


知恵のあまりにもファンシー思考に片眉下げて笑う。



そうか、
あんなに輝いている月も
あんなに遠い満月も

知恵に掛かれば身近なものになってしまうのか。



私も知恵にとって身近なものとして存在しているのだと思うと更に笑えてきて、
醤油がかけられた月のカケラに手を伸ばした。




          完
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