ショート・ストーリー

□恋するししゃも
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翌日、またあのスーパーへ買い物に行った。
今度は子供を保育園に預けている。
止めてくれる人がいないため自分で歯止めを利かせなければならない。

(今日は買う物決めてきたし、大丈夫よね)


うしっと気合を入れていざ進もうとすると、「あの・・・」と後ろから低くて遠慮がちな声が聞こえてきた。


「そこ、補充したいんで退いて貰っていっスか」


昨日の無愛想な青年だ。
初めて声を聞いたが(昨日初めて見たんだけど)言葉遣いまで接客態度が悪いのか。
普段なら呆れる所なのだが、昨日の彼を見てからはやけに納得してスペースを譲った。
「どーも」
また会釈して無表情で作業を続ける彼に何故か私の頬は上がってしまって、それを隠すように野菜コーナーへ逃げてしまった。






野菜、よし。
肉、よし。
お菓子、よし。

後はビールでも買って帰ろう。


予定にない物を買おうと冷蔵庫へ手を伸ばすと、誰かと手がぶつかった。
「あ、すみません」

さっきの青年が補充している最中だったらしく、また無表情で会釈された。
彼は意外と忙しいらしく、またいそいそと商品陳列を始める。
私はなんだか先ほどからお邪魔しているような気がして、気不味くなりながらお気に入りの缶ビールをそ〜っと手に取る。





「くくっ」





いつも無表情な青年が、心なしか口に手を当てて少し笑った気がして顔を伺うとまた無表情に戻っていた。
顔に血液が集中するのが自分でも理解できて慌ててレジのほうへ駆け込んでいくと、また彼がこちらを見て笑っている気がした。




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