ショート・ストーリー

□no name
1ページ/8ページ



俺は前科持ちだ。
そう言ったとき、人はどんな反応を示すだろう。



誰かは目を開いて逃げ出すかもしれない。
誰かは怯えながら普通に接しようとしてくるかもしれない。
誰かは「出て行ってくれ」と叫ぶかもしれない。
誰かは静かに泣いて拒絶するかもしれない。


誰かは、
本当のことを話しても
ただ何も言わず俺の傍に立っていてくれるかもしれない。







2年前から俺は人形売り場で働いている。
最近の人形は繊細な造りで、単調であるがまるで生きているみたいに動き出すものもある。
ロボットが内蔵していて簡単には洗えないので、専門の人に頼むのが主な手入れの仕方だ。

そこで、俺らは徹底的に人形の手入れ方法を叩き込まれ、現在この町に俺ともう一人の同僚の二人だけここで人形整備士として働いている。


もう一人の同僚は明るくて、だが時々何考えているか分からなくなる。
自己表現をあまりしないような奴だ。
それで、名前を絶対に教えない変な男。

ここまで聞いて彼を怪しく思わない人間はいないと思う。
だが、そう考えると俺も十分に怪しいだろう。
俺も名前を言わないのだから。







次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ