short婆

□オンシジウム
1ページ/1ページ






『っ、あの…!』

「Ah-?」


今にも泣き出してしまいそうな表情(かお)でおずおずと差し出された白い封筒。
学園祭の最終日に催されるdance partyのpartnerにと声を掛けられた回数は数えきれないが、こうやって手紙を渡されるのはこれが初めてだ。


俺がその封筒を受け取ると、女は嬉しそうに一瞬笑ってすぐに走り去ってしまった。

開けて見ると、中には肝心の手紙のようなものは見当たらず、代わりにcuteな黄色い花の押し花が入っていた。

訳が分からず首を傾げていると、後ろからがしっと肩を組まれ、その重みに顔をしかめる。


「よ!まぁた女を泣かせたのかい?」

「泣かせてねぇよ。人聞きの悪ィこと言うなよ前田慶次」


舌打ちをして前田の手をぺし、と払うと、つれないねぇとか言いながら、全く懲りた様子など見せない笑みを浮かべる。


「ん?その花……オンシジウムじゃないの?」

「、知ってんのか?」

「まあね」


前田は意味ありげに笑うと、一呼吸おいて俺の耳元で呟いた。


「その花、くれたコに渡しなよ」

「Ha-?」


俺の肩をぽん、と叩いて去ろうとする前田に意味が分からず振り向くと、ムカつくくらいの良い笑顔で片手を上げた。


「それ、『いっしょに踊って』って意味だと思うよ!ま、どうするかはアンタ次第だけどなっ」

「……Thanks」


俺は、オンシジウムを寄越した女にそれを返した。

もちろん、その女が伝えたかった『いっしょに踊って』という意味を込めて。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ