short婆
□オンシジウム
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『っ、あの…!』
「Ah-?」
今にも泣き出してしまいそうな表情(かお)でおずおずと差し出された白い封筒。
学園祭の最終日に催されるdance partyのpartnerにと声を掛けられた回数は数えきれないが、こうやって手紙を渡されるのはこれが初めてだ。
俺がその封筒を受け取ると、女は嬉しそうに一瞬笑ってすぐに走り去ってしまった。
開けて見ると、中には肝心の手紙のようなものは見当たらず、代わりにcuteな黄色い花の押し花が入っていた。
訳が分からず首を傾げていると、後ろからがしっと肩を組まれ、その重みに顔をしかめる。
「よ!まぁた女を泣かせたのかい?」
「泣かせてねぇよ。人聞きの悪ィこと言うなよ前田慶次」
舌打ちをして前田の手をぺし、と払うと、つれないねぇとか言いながら、全く懲りた様子など見せない笑みを浮かべる。
「ん?その花……オンシジウムじゃないの?」
「、知ってんのか?」
「まあね」
前田は意味ありげに笑うと、一呼吸おいて俺の耳元で呟いた。
「その花、くれたコに渡しなよ」
「Ha-?」
俺の肩をぽん、と叩いて去ろうとする前田に意味が分からず振り向くと、ムカつくくらいの良い笑顔で片手を上げた。
「それ、『いっしょに踊って』って意味だと思うよ!ま、どうするかはアンタ次第だけどなっ」
「……Thanks」
俺は、オンシジウムを寄越した女にそれを返した。
もちろん、その女が伝えたかった『いっしょに踊って』という意味を込めて。