2部小説

□悪戯
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コップの中に入った水に、人差し指をぽちゃりと沈める。
そのままそろ〜っと指を上げれば、水はプリンのようになって、指にくっついて持ち上がった。
「へっへっへ…そ〜っとそぉっと。」
抜き足、差し足、忍び足。出来るだけ音を立てないように細心の注意を払いながら、ソファーへとゆっくりと近付く。
そこには、気持ち良さそうに眠るシーザーの姿。

いまだマスクに慣れない自分は、息苦しさに目を覚ますこともあるというのに、この男は一人涼しい顔をして眠り続けている。
そんなのって不公平だろ?
逆恨み、八つ当たり、そんなのは承知の上!要はこの男を目覚めさせることが出来れば、それでいいのだ。
静かな部屋に二人っきり、なのに放っておかれたままだなんて、退屈で退屈で死んじまう!

慎重にソファーとの距離を縮めながら、波紋の呼吸にも気を配る。これって、実はちょっといい特訓になるんじゃないか?

さぁ、ついに手を伸ばせば届く距離までやってきた。後は思いっきり波紋を送って、このぷるぷるしたお水ちゃんを、バーンと花火みたいに炸裂させるだけだ。
いざ、決行!

「…なにをしている?」
声が聞こえたのは、俺が呼吸を深く吸うのとほぼ同時。
気付いた時には、プリン状の水にもう一本、俺のではない指が刺さっていた。
ぶつかる視線。鮮やかなグリーンの瞳が、キザったらしくニッと笑う。
そして、水のプリンは跡形も無く弾け散った。そいつはもうド派手に。全部、俺の方へと向かって!
「チ、チクショー!タヌキ寝入りかよ!」
「はっはっは!残念だったなJOJO!」
水も滴る良い男、とは言うが、こいつはちっとやりすぎだろ!
俺は人に悪戯をするのは好きだけど、自分がされるのは大っ嫌いなんだぜ!
…それに、俺はまだコイツほどうまく波紋を扱えないと、そう思い知らされた気分だ。
くっそ!面白くねぇ!
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