貰い物
□微熱と抱擁
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「…ごめん、」
「え???」
両肩を捕まれ、いきなり引き剥がされた綱吉。
謝られても、何が何だかわからない。
「あの…ど、どうしたんですか???」
恐る恐る問いかける綱吉は、内心かなり動揺している。千種の気が削がれることを、無意識のうちにでもしてしまったのだろうか???
「―――いや、…今更こんなこと言うのもなんだけど、」
「はい、」
俯き、片手で自分の顔を覆う千種は、固唾を呑んで耳を傾ける綱吉に、溜め息混じりに呟いた。
「…シャワー、浴びてない、」
「は…?」
え、だから…何???
「…着替えてない、」
「はぁ、」
寝巻きのままって…ってこと???
「…だから、ごめん…ダメだ、」
「ダメ!!??」
キョトンとする綱吉から、遠ざかるように身体を離した千種の話をまとめると、こうなる。
丸一日、熱が出ていたのでダルさに任せて横になっていた千種は、入浴はおろか着替えもしていない。
エチケットとして、そんな状態の自分が恋人に触れるなんて良くないんじゃないかと気付いた。
…らしい。
「えー;そんな理由で!?…オレが体育の授業で汗掻いたあとも、千種さん全然無視して抱き締めてたじゃないですか!!」
「それは…綱吉はいいんだ、」
あー、いるよねこういう人。相手の汗の匂いとか全然気にしないくせに、自分のはちょっとしたのでも凄い気にする人。…あ、私もそうかも。
「うぅ〜、やですよ!!さっきは抱き締めてくれたじゃないですか!!オレ、そんなの気にしませんから!!」
綱吉も風邪を引いて寝込んでいたので、恋人との触れ合いは何日もずっと我慢していた。それが解禁になったかと思えばこの仕打ち。
でも、それは千種も同じだ。
先ほど感じた愛しい体温を、もっと堪能していたい。
「―――わかった。じゃ、少し待ってて…今風呂に、」
「ダメですよ!!まだ微熱があるんですから!!…あ、そうだ、」
やおらベッドから出ようとする千種を押し留め、綱吉はあることを思い出す。
自分が高熱を出して汗を掻いたとき、母親である奈々がしてくれたこと…。
「ここにいてくださいね!!すぐ戻ってきますから!!」
「………?」
思い立ったが即刻行動。
笑顔で部屋から出て行った綱吉は、変なところが潔癖な彼氏のために、真っ直ぐに洗面所へと向っていった。
☆☆☆☆☆
「じゃ、…脱がせます、ね?」
数十分後、戻ってきた綱吉の手にあったのは、お湯が張られた洗面器と真新しいタオル。
奈々もこうして、熱のある綱吉の身体を丁寧に拭ってくれたのだ。
(よし、今日はオレが千種さんに…)
綱吉は『自分でやるから、』と言った千種を、時間をかけて説き伏せ、固く絞ったタオルを手にベッドに上がる。
そして丁度向かい合うように座った千種の胸元に手を伸ばし、前開きになっている淡いボルドーのパジャマのボタンを一つ一つ外していった。