書架 7

□メルヘンクラブ
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マナベは、派遣先の大学で「夢の中でなら、好きな人と会い放題ですよ」という勧誘につられて、「メルヘンクラブ」というサークルに入会した。部員は大学生5人と社会人のマナベ、計6人。活動場所は大学図書館の書庫、目的は、現実では叶わない願いを、夢の中で叶えること。マナベのただひとつの願いは別れた彼氏・タケヲに会うということ。そして、夢の中でタケヲに会うために訓練を始めるのだった。


先日ブログでも紹介した『sweet aunt』が、なかなか好きなタイプのお話だったので、同じ作者の作品をまた読んでみた。これが、デビューから2作目。

可愛いタイトルと表紙のイラストに騙されちゃいけない(笑)
どこまでもネガティブなお話。途中、読むのが苦しくなる場面もあって、このままラストまで暗いままだったらどうしようと恐怖すら覚えるくらい(笑)

そもそも、現実では叶わない願いを、夢の中で叶えようとするって発想が暗いもの。
暗いというか、悲しすぎる。このサークルの6人は誰もがコンプレックスを抱えていて、なんだか現実逃避気味。

マナベは、いつも人に合わせ、何も主張しない。無関心・無感動・無気力……そんなマナベの人生はタケヲに出会って、ほんの少しだけ変わり始めた。
ところが、その最愛の彼氏タケヲにフラれ、自暴自棄になり、ひきこもりになり、再び何に対しても無関心・無感動になっていくマナベ。

たかがフラれたくらいで、とか、次に恋をすれば忘れる…なんて他の人たちは言うかもしれないけれど、当人にとっては、この世の終わりってくらいにショックなことはあるわけで。

これが恋愛ではなく、過去の悲しい出来事だったら……、「たかが、そんなことで」なんて言い切れないだろうし。
人って意外と心の傷をどこまでも引きずってしまうことってあるんじゃないのかな。

読んでいて、マナベのことを暗いなぁ、後ろ向きだなぁと思いながらも、なんだか人ごととして突き放しきれないのは、やはり誰にでもこういう負の感情に覚えがあるからなのかもしれない。
頭では、明るく前向きに!なんて思っても、実際は、ふとしたきっかけで、どうしようもないくらい落ち込んだりすることってあるもの。

けれど、今のままの自分を決して肯定できないのに、自分からは積極的に変わっていく努力もできない。このままじゃいけないと思いながらも流されるように日々を生きていく。程度の差はあれ、今を生きる人には、なんとなく身に覚えのある感覚だろうなぁ。
だけど、人って、びっくりするくらい単純なことで勇気が出たりするし、立ち直ったりもする。

暗闇の中に僅かながらも希望の見えるラストは好きかも。
長い夢から覚めた彼らのこれからの人生が、幸せなものであるように祈ってしまう。

私の好みのタイプの本ではなかったけれど、なんだか妙に惹かれてしまう不思議な物語だった。

2009.5.22

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