書架 8

□放課後のウォー・クライ
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高校2年生のリカは、数学教師の高木と内緒で付き合っている。
穏やかでクラスでは目立たない仮谷は、携帯に似せたスタンガンをひそかに持ち歩いている。
BLに夢中の真希は処女なのに妊娠を恐れてピルを持ち歩いている。
それぞれに不安を抱えた3人の高校生の物語。
第4回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞作。



文章は読みやすい。難しい語句や表現もなく、会話文が多いので2時間ほどで読了。
日本ラブストーリー大賞ということだけれど、恋愛小説というより青春小説かな。

「いつ死んだっていい」と思いながら生きている、何事にもドライで早熟な主人公。生と死。そしてセックス……。
携帯小説出身の作家さんらしく、いかにも携帯小説的な展開なので、好みは分かれるところかもしれない。

ベタな展開、ベタな台詞、ベタなラスト。
これを読んで心から感動するには、私は大人になりすぎてしまったのかなと思いながらも、やはりストーリーに引き込まれてしまった。


特に、真希の話す神様の話は、切なく心に響いた。


「空の上に、すごい大きな神様がいてね。毎日、手からいっぱい針をまいて、地上に降らすの。その針に刺さった人間は不幸になるの。それで、運が悪いと死んじゃうの」

「神様は、人間が自分のこと忘れないように、ずーっとそうやって針をまき続けるの。だから、人間はずーっと神様を怖がって生きなきゃいけないんだよ」


理想と現実には、笑っちゃうくらい隔たりがあって、神様はどうしてこんな残酷なことをするんだろうって思うようなことが人生には起きるもんね。
まるで神様が無作為に不幸になる人間を選んでいるように感じる時がある。


そしてなんといっても、効果的なのがタイトルにある「ウォー・クライ」。
「ウォー・クライ」とは、ニュージーランドのマオリ族の戦士が闘う前にする儀式の歌。


Kamate!Kamate!
私は死ぬ、私は死ぬ。
Kaora! Kaora!
私は生きる、私は生きる。


これは、戦いの歌……。
誰もが毎日、壊れそうな想いを武器に人生を戦っているんだって思うと、なんだか切ない気持ちになった。


思春期の繊細な心が抱く不安や苛立ち、理想と現実の差、生と死。
それらをわかりやすいエピソードで描いた青春小説。
意外性や新鮮味はないけれど、普段読書は苦手だと思っているような10代の子でも、きっと小さな「気づき」があると思う。
私も、不覚にもウルッとしてしまったのは内緒(笑)



2009.7.29

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