小説

□さよならのあとに
1ページ/4ページ



別れは、あっけなくやって来た。


私の仕事が軌道にのって来た矢先のことだった。
憧れだったインテリア雑貨のショップに勤めて、やっと支店を任されたのは1年前。
弘樹の父が倒れたという知らせがあったのは3週間前のことだ。
幸いにも回復したが、以前の様に仕事をするのは無理だと言われたらしい。

彼の実家は山形の小さな町で温泉旅館を営んでいた。
弘樹は長男だった。
けれど、東京の大学を出て、東京の広告代理店に就職した。
いずれは山形に帰るかも知れないことを彼自身も漠然とは感じていたのだろう。


父親の入院した病院から戻った弘樹は私に言ったのだ。

『結婚しよう。一緒に山形に行って欲しい』

もう3年も一緒に暮らしたんだから私も、いずれは弘樹と結婚するかもしれないと思っていた。
でもそれは、東京での話だ。
私は東京で生まれて東京で育った。東京を離れるなんて考えられない。
何よりも仕事を辞めることは出来ない。やっと夢が叶ったのに。

たまには銀座で買い物したい。
シネコンで映画を見たい。
お洒落なレストランで食事をしたい。
子供じみているかもしれないけど、そういうものと全て決別するなんて私には考えられなかった。

何度も話し合った。ほんとに何度も、何度も。
でも二人の未来は重なり合わない。
私達は結論を出した。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ