透叫

□欲の連鎖
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イザヤは少し怒り気味で、いくつもの部屋がある神殿の廊下を歩いていた。
庭に面した廊下は等間隔で柱に支えられており、建物全体は白く滑らかな石で造られている。
やがて神殿の中央まで来ると、一際広い中庭に木々が植えられ、その中央に噴水が水を絶えず吹き上げている。

噴水の縁は座れるよう椅子の形をしており、その椅子へイザヤは無言で座った。
木々の間を飛び交う鳥のさえずりが聞こえる。
水の流れる音も合わせて聞いていると、自然と気持ちが落ち着いてくる。
空を見上げればちらほらと使いの天使が飛んでいくのを見て取れた。

「イザヤ様?」

短めな椅子の背もたれに身を預け、目を瞑って仰向いていたイザヤに声がかかった。
ゆっくり目を開くと、イザヤの顔を覗き込むようにオリシャが立っていた。

「オリシャ」

創造と破壊の神には使いの天使が1人仕えている。
オリシャはイザヤとイザトの使い天使だ。

「どうかなされたんですか?ひとりで」

イザヤは椅子に座り直し、真っ直ぐにオリシャを見上げた。
性は男のオリシャは整った顔立ちだが、どこか可愛らしげもある。
が、性格は可愛らしくないんだからもったいないよなーと、天使達の間で口々に噂されている。
オリシャは淡い黄緑の短髪に空色の目を持ち、天使達に支給される、灰色で緩やかな作りの服を身に纏っていた。

「いや、イザトと少しな…」

苦笑するイザヤにオリシャは驚いた様子もなく、逆に好奇の目を向けた。

「珍しいですね。喧嘩ですか?普段は仲いいのに」

「喧嘩というほどではないよ。些細ないざこざだ」

「なるほど…。倦怠期ですかね?」

「オリシャ」

さも面白そうに言うオリシャに、軽い叱りの一瞥をくれて、イザヤは立ち上がった。
優しく降り注ぐ陽の光に、白いローブが薄く黄色に染まる。

「世界を救う方法など、考えるだけ無駄なのだろうか」

独り言のつもりだった言葉に、オリシャは反応した。

「箱庭は壊れる定めです。逃れる術はありませんよ」

長く生き続けている世界はある。
だがそれすらもいつかは砕かれてしまう。破壊の神によって。

「解っているさ。それが仕事だってこともな…」

どこか寂しげに呟くその姿は、普段からは見ることのないイザヤだった。
そんなイザヤを見たオリシャは自分の言葉を後悔し、そして同時に言い表せない感情を抱いた。
人間に近づいてきている。
僅かながらも、確実に。
どこか愉快で、その変化を見るのがオリシャの楽しみでもあった。

「イザヤ様。部屋へ戻らなくてよいのですか?」

「ああ。一緒に行くか」

イザヤがそう言い、オリシャはイザヤの後に続いてイザトがいる部屋へ向かった。


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