透叫

□願いの代償
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イザトは内心焦っていた。
こんなことは初めてだ。
破壊力の配分を違えるなど。
そのせいで透叫は思ったよりも早く破滅へ向かっている。

何かがおかしい、そう初めに気付いたのはオリシャだった。
透叫は人口が多い箱庭だとはいえ、投函される紙の量がそれを上回っている。
それをイザトに告げたところ、些か顔が青ざめていた。
人間に近づいているのは、イザヤ様だけではないようだ。

「…どうするつもりだ?イザト」

世界の顛末にて、イザヤはイザトに向かって静かに言った。
イザトは相変わらず紙を吐き出しているポストを眺めながら冷や汗を掻いている。
どうやら破滅の力が暴走を始めているようだ。

「いや、本当にこんなはずでは…。このままだとまずいな」

箱庭に与えた破滅の力が強すぎたり、ましてや暴走などしてしまえば箱庭だけでなく、力を与えた破壊の神にも悪影響が出る。
破壊する際、強大な力が自身にも襲い掛かる。
つまり、自分の力によって消滅するのだ。
そういった原因で消滅した破壊の神は少なくない。
人間に近づいたせいで感情が生まれ、力をコントロールできなくなる。
そうして破壊の神は減っていく。
これを予想して、イザヤ様はあんなに怒っていたんだろうか。
オリシャはひとり思い、胸が震えるのを感じた。
今までいくつかの神を見てきた。
そして、その全ての神が消滅した。
人間に近づきすぎたために。
その過程もまたそれぞれに違い、それを見守るのも役目の1つだ。

「イザト…。アダム様に相談を」

「いや、無駄だ。あの方が許して下さらない」

「だが…」

重い空気を漂わせるイザヤとイザトを、オリシャは黙って見ていた。
神でいられるのはあと僅かか、それとも…。

「なんとかする。必ず」

暴走した力を抑える方法はいくつかある。
それができればまだ神でいられるはずだ。
神でいることを望むのか…。
それすらも人間特有の感情だというのに。

イザトはオリシャが紙を詰めた麻袋の山に向かい、ひとつずつ燃やし始めた。
そうして破壊の力を減らしていけば抑えられる。
ただし時間がかかるのが難点だ。
間に合うといいけど。
そう思いながら、オリシャは着ているローブの襟元に手を突っ込み、麻袋を取り出した。
吐き出して止まないポストの投函口に麻袋の口を当て、直接中へ入れる。
時々押しつぶしながら、溜まった袋をイザトの方に投げてよこしていく。
そしてそれを眺めていたイザヤに振り返って言った。

「イザヤ様も手伝ってください」

「お前、どうやって出してるんだ…」

イザヤの疑問に耳を貸さず、懐から出した麻袋をイザヤに差し出す。
問答無用のオリシャに、イザヤは黙って零れた紙を拾っては袋へ詰め始めた。



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