短編

□BGM物語
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常に砂嵐が吹き荒ぶ広大な砂漠。
360度どこを見渡しても黄色に近い茶色の砂、服の生地を貫く太陽の暑さ。
刺さるような暑さに額に汗が滲む。
ただ独り、男は何かを待っているかのように、どこまでも広がる砂漠を砂の丘から見下ろしていた。
時々吹く風が生ぬるいが、滲み出た汗を冷やして体を涼める。
太陽はまだ高い。


黒いマントに身を包んだ男性、細かい装飾がされているドレスを着た女性。
広いダンスフロアを埋め尽くす人々。
女性のつける香水の匂いや、男性のポマードの匂い。
大音量で奏でられるオーケストラの曲に合わせて踊る男女。
全員顔に鮮やかな仮面を付けている。
目の周りだけが隠れ、見える口元は妖しく微笑む。
赤や青い羽で飾られた仮面はその人の見栄やプライドを現しているかのよう。
貴族だけが集まる場所。
さまざまな思惑が行き交う場所。


遠く揺れる赤い夕日が街を朱色に染める。
体の至る所に傷を負った兵士が、生気を無くした顔で座り込んでいた。
道を挟んだ向かい合わせの建物には、もう人の気配はない。
誰もいなくなってしまった街はかつての面影も残さず佇んでいた。
腹部の傷口から広がる血が、服を赤く濡らしていく。
ひとりの男は仲間を思った。
近くにあった建物に背中を預け、もはや歩くこともままならない自分の足を憎んだ。
皆死んでいった。
馬鹿げた理由で起こった争いに巻き込まれ、何の為に戦うのかも分からないまま。
理不尽さに憤りばかりがこみ上げる。
強く握り締めた手に、爪が食い込んで血が流れ出す。
無意味さに、虚しさに襲われて、死の恐怖が自分を襲う。
体が冷たくなっていくのが分かる。
はっきり見えていた街並みも、もう霞んでよく見えない。
薄れゆく意識の中で、彼女の笑顔が見えた。
やっと側へ行ける…。
男の口元は微笑んでいた。


→あとがき

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