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□ひだまり。
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真希が、Lの仕事部屋の扉をしずかに開くと、Lは椅子の上にしゃがんで座っていた。

―お茶が入ったよ。

その言葉を真希は、咄嗟に飲み込んだ。
Lは真希には気づかず、机上のワタリの写真立てを片手に持ち、ただじっと見ているのだった。

何を想っているかまでは、真希にはわからない。
けれど想像は出来た。
彼は今、自分の胸の中にいるワタリに語りかけているのだと思う。

一人、しずかに。

こんな時、どんな言葉も力にならないことを真希は、実体験として知っていた。

どんなに心を込めた言葉でも、その心に明確に寄り添える言葉はない。

言葉は、時々ひどく無力だ。

ふぅっと真希は小さく息を吐き出す。
勇気を出す時の、無意識の仕草。

「L」

真希はしずかに声を掛け、部屋へ入る。
ちらりと真希に一瞥をくれ、再びワタリへと目線を向けるLの頭を、真希はおずおずと撫でた。

Lが、そのほそい手首を掴む。

「…ごめんなさい」

真希はその行為を拒絶と受けとった。
これ以上、踏み込まないでくれという合図に。

けれどLは困惑していたけれど、笑顔を浮かべていた。

「いえ、違うんです。あんまり優しくしないでください。あなたのことが、ますます好きになってしまって困ります」

その言葉を聞いて、真希は、そんな事を言われたら私のほうが困るよと思った。

時として言葉は、なんの役にも立たないけれど。

真希は目を伏せて、花のように微笑う。

「Lは一人じゃない。あなたが寂しい時は私が絶対そばにいるから」

Lは真希の肩を抱き寄せて、そのあたたかい体温を確かめるように、肩口に顔をうずめた。

「真希さんは、本当に男前ですね」
「それ、褒めてるの?」
「はい、一応は」

二人は、くすくす笑い出す。

その傍らで、写真立ての中のワタリが微笑んでいた。
真希には、ワタリが二人を見守っているように見えた。



それは、とてもあたたかい春のひだまりのように。




end
2014.5.26up

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