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「じゃあ、俺はもう行くが…お前はもう暫くここに居てくれ」
「…? はい?」
全く意味のわからないことを言い、駿河は軽く片手を挙げて去っていった。
いつの間にか会計の革製ファイルを脇に抱えていたのが遠目に見えた。
訳のわからぬまま、とりあえず紅茶を啜る。
ホテルのラウンジには、人が多数いたが雰囲気は落ち着いていた。
給仕、談笑する女性たち、新聞を広げているサラリーマン、打ち合わせをする男性客、それから―。
黒く艶やかな髪を、私の記憶しているよりずっと長く伸ばした少女。
「久しぶりだね、L」
少女は、真希は悪戯っ子のように笑ってそう言った。
驚きのあまり思考も、カップを持つ手も何もかもが止まってしまった。
かちゃんとカップをソーサーへと置く。
「真希さん…。どうしてあなたがここに居るんです?」
「駿河さんに頼んだの。今日ここにLを連れてきてって」
真希はスッと私の前の席へ収まるとそう言った。
どうりで駿河の言動が不審だったわけだ。
「三年前と変わりましたね。制服も違うし、髪が伸びて大人っぽくなりました」
「そうかな? Lは、あんまり変わってないんだね。猫背も。あの頃のまま」
ふふっと笑う真希に私は改めて驚いていた。
「私のことなど忘れてしまっているかと思っていました」
真希は黙って鞄からクマのぬいぐるみを取り出した。
私が声を吹き込んだ、あのクマだ。
「これをね。毎日聴いてたの。一人で寂しいときや、眠れない夜は心強かった。もう日課だよ」
そう言って笑う。

「会いたかった」

私が驚いて顔を上げると真希の眼からは涙の粒が、彼女のぎゅっと握られた拳の上に、ぱたぱたと零れていった。
私は、手を伸ばして彼女の手を取った。

「私も、会いたかったんです。ずっと」

声は相変わらず平坦なものだったが、視線はとても熱を帯びていたと思う。
そんな自分に微苦笑しながら私は言った。
「とりあえず、何から話しましょうか?」
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