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□バースディ
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「誕生日って両親に感謝する日なんだって」

真希は微笑を浮かべて、そう言った。
テーブルの上にはホールのケーキ。
ケーキにはキャンドルが何本も挿してあり、炎がゆらゆらと揺れていた。

「私は物心ついたときから施設にいて覚えていないのです。ずっとワタリが親代わりでしたし…」
冷淡と思われるかも知れないが、それが私の本音だった。
感謝するのなら、産みの親より育ての親。
勿論これは、あくまで私個人の考えだ。

真希は少し考えてから口を開いた。
「それでもやっぱり私はLの実のご両親にありがとうって言いたい。Lと出会わせてくれてありがとうって」

静かに深い声でそう言われると単純だが不思議とそうかも知れないと思えてきた。
「そう…ですね。私も真希さんと会えて、」

そこで私は言葉を止めた。
最近の私は変なのだ。
こう、心の奥のほうから、ほわほわと温かい気持ちになって妙なことを口走ったりしてしまうので困っている。

「私と会えて、なに?」
じーっと真希が私を見つめている。
シャンパンをグラスに注ぐ手を止めて。

因みにシャンパンはノンアルコールのものだ。
途中まで注がれたシャンパンを見ながら、ふと思い出した。
シャンパンの泡の中には幸せが入っている、らしい。
「あ、キャンドルの蝋が…」
だいぶ短く、ともすればケーキに蝋が垂れてしまいそうだった。
真希が慌てて立ち上がる。
「L、早く吹き消して!! 心の中でお願いごと言ってね!!」
「わかりました。やってみます」

私はキャンドルの炎に息をふうっと吹きかけた。
灯りが次々と消えていく。



来年も一緒にいられますように。

誰と? なんて野暮なことは聞かないで欲しい。


「お誕生日おめでとう、L」

にこっと笑った真希が私のグラスに自分のグラスを合わせた。

ゆらりと中の金色の液体が揺れて、グラスの底から次々と泡が波状に昇っていく。

なる程。
確かにシャンパンの泡の中には幸せが入っているらしい。

私は、少々緩んでしまった口許にグラスを押し当て、それを口に含んだ。
口いっぱいにただ甘いだけの―でも正直に言えば私好みの―シャンパンの味がじんわりと広がっていった。











おわり
2010.10.31up

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