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□フェイクファー
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桜が散り始めた頃。
ちいさなコホコホという咳から始まって様々な症状が出だして、あっという間に熱が38℃まで上がった。
主治医―小さな老紳士のその医師はどこかワタリを思い出させる―の診察は、風邪ですね、という単純明快なものだった。
原因としては、寒暖の差によるもの、偏った食生活や不規則な生活によるもの、働きすぎによるものなどが挙げられ、そのどれもが日頃から私が真希にしつこく注意を受けていたもので、横で聞いていた彼女は呆れ顔だった。
主治医は、とにかくゆっくり休むことと、少しで良いから食事をとり薬をきちんと飲むことです、と真面目な顔で言った。
その後、すこし笑って、それからこちらのお嬢さんにあまり心配をかけないようにしてあげなさい、と付け足した。
「…心配」
されているのか?と思わず呟き真希を見遣る。
真希は、ぱっと顔を背けた。
心なしか真希の頬が赤い気がする。
そんな私たちを交互に眺め、主治医は笑って帰っていった。



「お粥に薬、ポカリでしょ? あと退屈しのぎの本。他になにか必要なものは?」

真希の手際良い看病で、足りないものはなにもなかった。
「真希さん。一つお願いがあるんです」

どうして病気のときはこういう気持ちになってしまうのだろう。

まるで子供みたいだ。

まぁいい。

私は布団から手を出した。
「手を繋いでもらってもいいですか?」

「うん、いいよ」



真希は、はにかんだ笑顔を浮かべて私の手をきゅうっと握った。
いつもはちいさな頼りない、私が守ってやりたい少女が、いまは不思議と大人びて見える。

「はやく良くなるといいね」

真希の言葉に私は天井を仰いだ。

「いえ。しばらく良くならないほうがいいんです」
「え…なんで?」

真希が首を傾げる。
私はニヤリと笑ってこう言った。

「良くならなければ、あなたとずっと手を繋いでいられますから」
















終わり
2011.4.24up

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