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□ランデブー
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薄暗い休憩室にはベンチソファーと自動販売機。
自動販売機のモーター音がブーンと低くちいさな音を立てていた。

「あの時、ごめんね」
「なにがよ?」
「俺、すみれさんのこと守ってあげらんなかった」

すみれは隣に座っている青島の顔を見ないようにする。
俯いて、いまは顔を見られたくないだろうと思ったからだ。

数ヶ月前、すみれは銃で撃たれ重体となった。

拳銃を振り回す被疑者たちから、小さな女の子を守るために。

考えるより速く体が動いていたし、自分が撃たれたのだと理解するまで、すこし時間がかかったように思う。



そのあとのことは、あまり覚えていない。
傷口が痛いというより熱いな、とぼんやり思った。
血が信じられないくらい流れて、今まで見たことのない真剣な表情の青島にきつく抱きしめられていた。
覚えているのは、それからもうひとつだけ。

青島の手が震えていたこと。

「私のほうこそ、ごめん」
「なんですみれさんが謝んの」
「あの時、青島くん、私が死ぬかもって思ったでしょ? だから、怖い思いさせてごめん」

すみれは空いている右手で青島の左手を握りしめた。

「青島くんを遺して私が死ぬわけないでしょ?」

照れ隠しに、幾分、憤慨したような物言いになってしまったとすみれは思う。
横から、くくっと笑いを堪える青島の姿が目に入った。
思わず青島を見るとにこっと白い歯を見せて、いたずらっぽい笑顔を浮かべていた。

「すみれさん、男前すぎ」
「悪かったわね」

急に馬鹿らしくなって、すみれは青島から手を離した。

青島は立ち上がり、空になった缶コーヒーをダストボックスに、吸い終わった煙草を灰皿へと押しつける。

「悪くない…」
「え?」
青島はすみれに背を向けて、ドアへ向かいながら、横顔だけで振り返る。

「悪くないよ。惚れ直した」

一瞬、言葉に詰まり、ようやく出たのが「ばか」のひと言だった。



青島は、あははと盛大に笑って、休憩室をあとにした。


すみれは残っていた缶コーヒーを一気に飲み干す。






ミルクと砂糖のたっぷり入った缶コーヒーは、それはそれは甘かった。







end
2012.9.9 up

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