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□恋のポリグラフ
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喧騒とそれから。

お酒と煙草と料理の匂い。

堀こたつのテーブルの下で私は足をぶらぶらさせながら、目の前の男の人に言った。
「笹塚さん、初デートが居酒屋ってどうなんすかね? 私、未成年だし」

食い入るようにメニューを見ていた笹塚さんは顔を一瞬だけ上げて答えた。
「いや、飲まなきゃいいんじゃ…? 俺は飲むけど」
「オイ」
私は条件反射で突っ込んでいた。
いろいろ間違ってると思うんですけど。

「弥子ちゃん好きだろ? 居酒屋メニュー。だからあえてここにしてみた」

笹塚さんはようやくメニューを脇に退け、私の顔をまじまじと見てそう言う。
たしかにお酒のおつまみや、お酒に合う料理は大好きだ。
私は途端に浮足立った。
「ほんとですか? だったらちょっと嬉し」
「ごめん、嘘」


言い終わる前にいつものポーカーフェイスでそう告げられ、私は一気に暗惨たる気持ちになる。
「笹塚さんってさりげなくSだ…」
「んー。好きな子ほどいじめたいお年頃?」
笹塚さんは運ばれてきたビールをぐびぐび飲んだあと、そんなことを言った。

私は思わず動揺する。
箸で掴んだ、お通しの酢の物をぽろりと落としてしまうほどに。


「そ、そういうことをさらっと言わないでください!」
「なんで?」
笹塚さんは、自分の発言にどれほどの威力があるかなど意に返さない様子で首を傾げている。

「なんでもです!!」

必死にそう言うと、笹塚さんはシャツの胸ポケットから煙草を取り出した。
そうしてライターでカチリと火をつける。

「ふぅん。…心臓に悪いから、か」
「な、なに言って…」
心を読まれたかと思った。私は焦って、ごにょごにょ言った。
笹塚さんは煙草を挟んだ指で私の顔を指し示す。
「顔に書いてある」



思わず顔に手をやると、頬がありえないくらいほてっているのがわかって、脱力した。
「はー…ほんとに心臓に悪いよ、笹塚さんって」
「そりゃどーも」

笹塚さんは煙草の煙を一息吐き出して、愉しそうに笑った。
中でも、もっとも心臓に悪いのは、その笑顔だということに彼は気づいているだろうか。


あーあ、もう。


おさまれ、心臓。






08/5/15up

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