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□理由はいらない
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「ハウルのバカッ! もう出てくからねっ! こんな城!!」
ばたーん、と勢いよく城の扉が閉められた。
ハウルはふん、と鼻を鳴らし、勝手にしろ! と扉に向かって言い放った。

扉の取っ手は赤だった。ソフィーの行き先はキングスベリーの《チェザーリ》だ。
ソフィーは足早に歩いてゆく。足取りは怒りを露わにしていた。どすどすという足音だけが周囲に響く。
もう何度目だろう。
ハウルと喧嘩する度、ソフィーはこうして城を出ていく。
顔を合わせると腹が立って仕方ないので、毎回こうして自分が外に出ていくしかない。
喧嘩の原因はごく些細なこと。
ハウルが食事を取らずに魔法の研究ばかりしているとか、ソフィーが掃除をしすぎて、ハウルの呪いを無効化してしまったり。
それが次第に言い合いになり、しまいにはこうしてソフィーが飛び出してくるのが定例なのだった。
喧嘩になるとお互いの言い分ばかり主張してしまい、しかもお互い折れるということをしないので性質が悪い。
多分どちらも悪いのだ。
ソフィーはふとそう思ったが、一向に折れずに文句ばかり言うハウルを思い出して、また怒りが蘇ってきたのだった。





《チェザーリ》は相変わらずの盛況ぶりで、ソフィーが客の間をすり抜けて店頭にいるレティーに耳打ちするのも一苦労だった。
「仕事中にごめんね。ちょっと抜けられない?」
レティーは笑顔で、後で行くからと二階の事務所へ行くようにと答えた。
事務所は人が出払っているようで誰もいなかった。ソフィーは、応接用の革張りのソファの横にトランクケースを置くと、窓際に行って窓を開け放つ。そしてぼーっと外を眺めた。
こんな最低最悪な気分の時でも風は気持ちよく吹いて、街はたくさんの人のざわめきで活気づいていた。

しばらくそうしているとノックのあとにレティーが顔を出した。
「ごめんね、仕事中なのに」
「いま休憩中だから平気よ。それより、それ!」
レティーは笑顔のまま、ソフィーの大振りのトランクケースを目ざとく見つけて指差した。
「まぁたハウルと喧嘩したの?」
鋭い妹の洞察力の前にソフィーは黙ってうなづいた。
そしてここへやってきた経緯を話し始めた。
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