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□花の名
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加藤という私の元部下が今日、結婚式を挙げる。
彼女はFBI捜査官で、薄茶色のふわふわしたショートヘアがよく似合う可愛らしい容姿をしていた。
外見からは想像がつかない優秀な人物だった。
長年の付き合いを経て、一般のサラリーマンと結婚する。
招待状には丁重に断りを入れたのだが、ふと思いたって二次会のガーデンパーティーに秘かに参列することにした。
真希を誘うと、「じゃあLはタキシードね」などと言われたが、堅苦しい服装は苦手だと言い張ったお陰で今の私はいつものラフな格好だ。
隣にいる真希はきちんとパーティー用のワンピースに身を包んでいた。

緑の美しい庭園はシャンパングラスを手にした招待客の笑顔で溢れていた。
その中心に加藤―もう、加藤という姓ではないのだけれど―はいた。
加藤は庭園の隅にいた私にすぐに気づいた。
私たちは一瞬見つめあう。加藤は微笑してお辞儀した。

とても幸せそうな、笑顔だと思った。





結局、私と加藤は会話も交さず別れた。
「帰りましょう」と真希に伝えると「もういいの?」と驚かれた。
もとより私は、彼女の幸せそうな顔を一目見たら帰るつもりだったから、これで充分なのだ。
帰り道、黙っていた私に真希が遠慮がちに問う。
「もしかしてあの人のこと好きだった、とか」

私は目を丸くした。
「上司として、ですよ? どうしてそんなことを?」
「だってLが物思いに耽ってるから。昔のこと思い出してたのかなって」

少々すねたように言う真希に、私は緩やかに首を振った。

「いいえ。私が考えていたのはそんなことではありません」
「じゃあ何考えてたの」



どうやら、まだ真希の機嫌は直らないようだ。
「…真希さん、今日は予行演習のために来たんですよ」そう言って、私は背中に隠し持っていた、淡いピンクの花の付いた小枝を差し出した。

花の名は、ハナミズキ。ミズキ科ヤマボウシ属の落葉高木。北アメリカ原産。別名、アメリカヤマボウシ。
花言葉は…。

「ハナミズキの花言葉は、私の想いを受けとってください」

真希は私より先にそう言って、私の目をじっと見つめる。
私は、ふっと視線を落とす。
「もらってくれますか」

真希はそっと花に触れた。
それはまるで、壊れものに触るような手つきだった。
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