恋物語
□あの日から聴こえる橙色のめろでぃ
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周りなんか見えないくらい、夢中で自転車をこいだ。
信号だって、ろくに見なかった気がする。
事故に遭わなかったのが不思議なくらい。
自分は彼に会って、どうするのだろうか?
告白?
浮んでは消える疑問。
いくら考えたって答えが出ないと知っていたから、考えるのは止めにしてペダルを漕ぐことにした。
穏やかな坂を登ると、古い小さな駅が目の前に現れた。
改めて、田舎だなぁなんて考えながら、自転車を止めた。
改札を通るためにてきとうに切符を買って、ホームに飛び出す。
走ると危ないよなんて、駅員に注意されたけど、聞こえないふりをした。
日番谷君が乗るのは、上り電車。
私が居るのは、下り電車が止まるホーム。
まだ電車は来ていない。
反対側に広がるホームに、彼の姿を探した。
***
私が見たのは、女の子を抱きしめる日番谷君だった。
強く強く強く、抱きしめている。
こちら側からは、女の子の背中と日番谷君の顔が見えた。
その子を抱きしめる彼は、目を瞑ったまま何か言っていた。
女の子は泣いている。
肩を上下に震わせて、きっと胸が苦しくて苦しくて、どうしようもないのだろう。
その女の子の気持ちが痛いほどわかるのは、何故だろうか。
日番谷君は、その震える細い肩を、更に強く抱きしめる。
力を込める彼の腕を見ていると、私の心はきつく締め付けられた。
凄く、苦しい。
私はその場から、逃げるように立ち去った。
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