恋物語
□あの日から聴こえる橙色のめろでぃ
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「ただいま。」
重たい玄関の扉を開けると、電球から溢れたオレンジ色の光が温かさを放っていた。
自分の心の中には、先ほどから灰色の何かがぐるぐるしている。
自分の内と外で、温度差の矛盾があって、泣きたい気持ちになる。
台所から夕飯の支度をしていた母が、お帰り、遅かったね。っと言った。
「友達と話してて・・・」
そういった瞬間、喉の奥が熱くなって、その次に来る言葉を飲み込んだ。
少し明るい声で、着替えて来るねと、それだけ言って二階にあがった。
喉元まであがっていた熱いものが溢れてしまいそうになって、最後の一段を駆け上がって自分の部屋のドアを閉めた。
我慢していた、堪えていた、熱いものが全部溢れて、目の前が涙で見えなくなる。
うっうっ
声を押し殺そうとしても、溢れるものが強すぎて、余計に苦しくなるだけ。
何で涙が出るんだろ。
何で辛いんだろ。
止まってよ。
***
「桃ぉ〜起きなさい。」
母が階段を登ってくる足音を聞きながら、桃は団子虫のように布団に包まって目を瞑った。
部屋に入ってきた母は、団子虫の桃に視線を向ける。
「桃〜、今日シロ君行っちゃうんでしょ!?お見送りに行かないの?」
「うん。」
それは雛森にとって、今一番考えたく無いことで、母は気付いているのだろうか。
構わないでほしいという意味をこめて、行くのか行かないのか、曖昧な返事で誤魔化した。
元気のない娘の声に、母はちっちゃな溜息を吐く。
「最近、シロ君遊びに来ないわね。昔はあんなに仲よかったのにね〜。」
「うん。」
これは、絶対に確信犯。
もう誤魔化せない。
「桃、何があったのか知らないケド、自分に素直になったら?
どんな結果になったっていいじゃない。
会いたいなら、会えるんなら、シロ君に会わなきゃ。」
なんで解っちゃうんだろう。
日番谷君のコト、何にも話してないのに。
「うん。」
涙が頬をつたって、布団にシミをつくる。
けど、それはこの前の涙とは違って、心の中は暖かかった。
きっと冷えきった心が溶けて、涙になったんだと思った。
切なくて、心臓が苦しくて。
これは、恋でしょ?
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