恋物語
□あの日から聴こえる橙色のめろでぃ
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駅のホームで、一年付き合った彼女に、別れを告げた。
あたしを愛したこと、無かったでしょ?と問われて、ごめんとだけ答えた。
その言葉を聞くと、その子は泣き出した。
行き場のない想いから目を逸らすために、彼女と付き合い始めた。
そんな身勝手な理由で、傷付けてしまったことを、今更ながら後悔する。
最後なんだから、彼氏らしい事してよねと言われて、その子を抱きしめた。
その子を好きになる事が出来れば、どんなに楽なことか。
こうしている間にも、雛森のことを考えてしまう。
そんな自分が情けなくなって、現実逃避でもするかのように、目を硬く瞑って、もう一度ごめんを言った。
雛森との距離は、元はと言えば、俺がつくった。
兄弟になってしまうのが嫌で、俺が遠ざかったんだ。
今更後悔したって遅い。
俺の抱えている気持ちは、いい加減終らせなければならないモノなのかもしれない。
いや、もっと前に終らせるべきだったんだ。
だから、今日は決着をつける。
今日は、全てを終らせる日。
長かった、本当に長かった、この恋に幕を引く時が来た。
冬獅郎は重たい鞄を持ち上げ、停車した上り電車に乗った。
たった今別れたばかりの彼女は、電車に乗り込む俺を見ている。
俺は、一度も振り返らなかった。
自動でドアが閉まると、電車はゆっくりと動き出した。
お世辞にも乗り心地が良いとは言えない椅子に座り、窓の外をぼんやり眺めた。
何処までも続く田畑が、懐かしい気分にさせる。
電車はゴトンッゴトンッと、俺を連れてゆく。
今更、降りるコトも、戻るコトも、出来ない。
自分の力ではどうにもならない状況に居ることに安心して、懐かしい風景から目を背けた。
これで、恋が終ったんだ。
長かった恋が、終るんだ。
まるで舞台の幕をおろすかのように、俺は瞼を落とした。
***Fin