人魚姫

□5.彼女の腕の中の子供
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***



柔らかいベッドの上で、桃は目を覚ました。

ぼんやりと瞼を開けると、心地よい風が白いカーテンを揺らしている。

桃は身体を起こし、自分が居る部屋を見回した。


自分が何故此処にいるのか、理解に時間はかからなかった。



そう、私は人間になったのだ。










She folded the baby in her arms〜彼女の腕の中の子供〜










「やっと、目を覚ましたのね。」


声のする方に振り返ると、見知らぬ女性が座っていた。

話しかけるのは、何処までも優しい声だった。



「貴女が目を覚ますのを、ずっと待ってたのよ。」


その女性は、「飲めるかしら?」と首を傾げながら、水の入ったグラスを差し出し微笑んだ。



「貴女、其処の浜に倒れてたのよ。覚えてらっしゃるかしら。」


クスクスと、その人は上品に笑った。



―――綺麗な人


けして若いとは言えないながら、品格があり、きっと高貴な身分の女性であろうことは察する事ができた。



「可愛いお嬢さんね。お名前は何ておっしゃるのかしら?」


“桃です。”



しかし、実際は声は出ておらず、小さな口をパクパクと動かす桃を見て、その女性は不思議そうな顔をした。



「もしかして・・・声が出ないのかしら。」



“そうだ、私は声を失ったんだ。”


あの時、覚悟は出来ていたはずなのに・・・泣きそう。



桃は小さく頷いて、俯いた。





「不安かも知れないけど、大丈夫よ。だから、泣かないで。」


その女性は、泣き出しそうな桃をそっと抱きしめた。

彼女の腕の中はとても心地よくて、まるで母親のようで・・・





母との記憶は、殆どない。

この年までずっと姉と二人で生きてきた桃にとって、彼女の腕の中の温かさに、安堵の涙がながれた。



***5話fin
 

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