人魚姫
□7.赤い薔薇の妖精
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コンコンッ
ノックの音がした。
“入れ”と短い返事をすると、雛森が恐る恐るドアを開けた。
「なんだ、雛森か。入って良いぞ。今暇だから・・・」
そういってやると、緊張が解けたかのように笑う。
その笑顔に、冬獅郎の心臓はトクンッと跳ねた。
彼女の白い腕は、真っ赤な薔薇を抱えていた。
The fairy of red roses〜赤い薔薇の妖精〜
喋ることの出来ない桃は、卯ノ花の教育をうけながら、この城の召使いとなって働くことになった。
彼女は毎日、冬獅郎の部屋の花を換えに来る。
白い花瓶には、いつも2・3本の花が飾られていた。
そして、今日も花瓶の水を取り換え、今日摘んだばかりの花を生ける。
「毎日悪いな。」
そう言うと、桃は机の上に置かれた紙とペンを動かす。
“花には妖精がいるんだよ。知ってました?”
「妖精?」
“そう。その顔は、信じてないでしょ。”
疑いの顔をした俺に、彼女は口を尖らせた。
声を待たない桃と元々無口だった冬獅郎との会話は、とても静かだった。
用紙の上をペンがさらさらながれてゆく。
風がカーテンを揺らす音、桃がペンを走らせる音、俺の体の中の心臓の音―――
そんな小さな音さえも、聴こえてくる。
この静かな空間には、とても大切な時間が流れているようだった。
何処にでもありそうで、此処にしかない、無くてはならない時間。
いつの間にか、この空間を心地よく感じるようになった。
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