小説2

□拍手倉庫
2ページ/8ページ

『ドライアイス』

よく判らない
何度目か数えるのも嫌になった言葉を脳内で繰り返す。大抵の物事は考えるまでもなく解を導ける性分だと思っていた。だと言うのに。…さて、どう言葉を選ぶべきか。「お前が好きだ。」直球の言葉を投げてきた相手を、このままいつまでも待たせる訳にはいかない。だから選択する

「火傷をするかもしれんぞ。」

経歴は勿論、精神的にも。含みを持たせた言葉。経歴はそのままの意味。奈良シカマルという名への、火傷。精神、は…まぁ。大きい家での己の立場だ。今でこそ無くなったが、´そういう事´が全く無かった訳ではない。寧ろ多いくらい。時の流れは前には進むが、後ろには戻れない。過去は消えてくれない。その辺り、敏い彼ならきっと理解出来る筈だ。触れれば確実に痛みを伴う
それなのに。「知ってる。」と距離を詰めて躊躇なく手を握ってきたのには驚いたが。きっと後悔するだろうに。ちゃんとした返事をしていなかったのには後から気付いた。その時は流されるまま、己の感情とは向き合わず。こいつが諦めるまで付き合ってやるかくらいの気持ちだった

あの時。こんなにも難しい事を。簡単にやってのけたのか、こいつは
とん。人差し指が空気を掻く。遠い、届かない。本当は、彼の指に触れて絡めてみたい。ような、気もしなくなくも、………ない
いつからだったか。彼に触れられた場所が。熱い、冷たい。痛い、痛くない感覚になって。よく判らないそれは悪化ばかり
ちゃんと己から触れる事が出来れば、それを知れるのだろうか

…いや、それこそきっと
火傷する


『どらい愛スノ恋こころ』
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ