小説2

□拍手倉庫
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いつもの商店街ではない商店街。装飾、すれ違う人間の格好。夜にも関わらず目が痛くなる色彩の数々。やれクリスマス、やれイースター。異文化を取り入れ続け節操のないそれらだが。行きつけの店に己の好物が並ぶこの文化だけは、嫌いじゃあなかった

「お。」

誰もかもがいつもと姿を変える中。いつも通り過ぎて、逆に浮いている長髪が目に入る。心なしか早足の背中。あれは機嫌が悪いなぁと思いつつ。子供の早足に、容易に追い付く

「よう、修行帰りか…っ。」

回し蹴りが飛んできた。いや、ここ街中。当たるつもりもないが、当てるつもりもない蹴りをした当の本人が、涼しげな顔をしてこちらを見上げている

「いい度胸じゃねぇか、クソガキ…。」
「申し訳ございませんでしたサヨウナラ。」

おい。というこちらの制止も無視して。一息に言い切った後、踵を返してネジは歩き始める。溜め息を吐きながら横に並ぶ。じとり…と音が聞こえてきそうな視線

「付いてくるな。」

最早隠そうともしない不機嫌。これは一種の甘えを見せてくれていると思ってもいいのだろうか。などと自惚れつつ。心当たりがあり過ぎる不機嫌の原因を口にする

「はっぴぃはろうぃーん。」

今度は拳が飛んできた。軽く掌で受け止めると、続けて蹴り。だからここ街中…と思ったが。どいつもこいつも浮かれているせいか、こちらの騒動が目に入っていない。それはそれで危機管理能力的にどうかとも思うが。軽く後ろに飛んで蹴りを避ければ、大きく舌打ち

「いい歳して、くだらない。」
「そのくだらない奴にあしらわれてる奴は誰だろうな。」
「…。」

あ。これもう口利いてくれないやつだ。むすぅ…と口を噤んで。最後に一睨みしてから、もうこちらを視界に入れようともしない。流石に、揶揄い過ぎた

「悪かったって。」
「どちら様ですか。」

おぉ…う。こうなったこいつは面白いが、本当に気難しい。どうしたものか…思考を巡らせる。ふと、ネジの瞳が一瞬迷った。何だ?視線の先を追って、あぁ…と声を出す

「飯屋入るか。」
「………子供扱いするな。」

たっぷりの間。迷ってる迷ってる。飯食うだけだろと少し強引気味に腕を掴み、蕎麦屋の扉を開け暖簾をくぐる。後ろから聞こえてくる抗議の声だけは一丁前。逃げ出さない所を見るに、少しは機嫌を取り戻せそうだ

「喜べ、奢りだぞ。」



その後。ハロウィン限定仕様南瓜小鉢のせいで。一週間口を利いてもらえなくなった


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