小説2

□拍手倉庫
6ページ/8ページ

どこで聞いた内容だったか

熱に浮かされた頭では、思考が定まらない。夢と現実の境界が溶けている状態は、ふわふわしていて心地よい
どうせ覚醒しても、誰かが助けてくれる訳でもない。もうすっかり慣れた状況の筈なのに、やはり体の不調というものは。心までをも弱らせるらしい
その影響だったのだろうか。若しくは支離滅裂な夢だったのか。どちらにせよ、未だに薬が効かず熱が上がり続ける脳は、いつ聞いたかも判らない内容をピックアップして。目蓋裏はそれいっぱいになる
動物。売られる動物の…そうだ。唄だ。幼子が歌う唄。どこで聞いたか判らない唄の内容のように。きっと父上は´うられた´
だれに?宗家に?里に?どこでもいい。ただ、漠然と。次は自分なのだろうな。同じように、同じ状況になった時に。切り離され、うられるんだ。とかげの尻尾
しかし、なんだったか。歌詞は

「……にばしゃ。」
「煮干し?」

虚を突かれた声。目を開けば、よく知った顔が少し驚いた表情でこちらを見下ろしている。何でお前がいるんだ。その言葉は喉で引っ掛かり、空咳

「水。飲めるか?」

優しい声色で枕元に置いてある水差しからコップに水が注がれ、近くに置かれる。そうだった。情けなくも季節外れの風邪に罹った俺の為に。こいつが、看病に来て。そのまま寝てしまったのか
誰かに看病される状況、というものが久方…いや、付き合ってから始めてで。…だからだろうか、遠い昔の夢をまた見る、など

「…ふ……っけほ…。」
「…何笑ってんだよ。」

大人しくしてろ。汗で額に張り付いた髪を、伸びてきた指が払う。擽ったい。柄にもなく、くすくす笑う。そのまま掌で額全体を覆った後、シカマルは溜め息を吐く

「熱下がってねぇな。」

何か食えそうなもん取ってくる。シカマルが立ち上がろうとする。額から、自分から離れる指に、咄嗟に手を伸ばした

「……あ。」

げほ。一際大きな咳に言葉が遮られる。肺から上ってきた咳は終わりが見えず。段々息が苦しくなり、目に涙が浮かぶ。数度シカマルに背中を撫でられ。少しずつ、少しずつ。空気を吸う

「っしか…まる……。」
「ん、何だ。」

まだ息苦しい。肺、喉を圧迫される感覚。脳の酸素が足りなくなったからか。それとも先の夢からくる、未だ胸に渦巻く不安感からか。正常ではない体が、エラーを吐き出す

「おいてかないで。」
「いや冷蔵庫、」

言葉を途中で止め、シカマルが優しく笑う。零れそうになっていた涙を指で拭い、手が頬を撫でる。幼子を安心させる様に、指が髪を梳いた

「薬飲む時に、胃が荒れるだろ。」

首を振る。髪に触れている手を取り、引き寄せる。強くない力の筈だが、シカマルは大人しく引き寄せられてくれる。困った表情をしながらも、隣で横になってくれた

「少しでも悪化したら、薬飲めよ。」
「ん。」

重なる手が握り返される。己の体温が高いせいで、冷たい。その手が傍にあるだけで、よく眠れる気がした



end
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ