小説2

□拍手倉庫
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探られている
そう認識した事を気取られないように。自然、いつも通りの動きを。意識せず、意識する
そんな矛盾を腹の内に抱えながら。視線も、気配も対象へ向けず。心の中で現状を整理する

探られている。恐らく、が前に付くが。概ね、そう言い切れるだろう
一見すればいつも通りの彼。共にする時間が長い己や、彼の班員ぐらいにしか感じ取れなさそうなくらいの、僅かな気配の違い…みたいなもの。とは言っても互いに忍。本当に気のせいだとすら思わないその可能性を考えられたのは、一重に、同じだからだ
俺自身も、彼を探っているから
ここ数日…探っている、タイムリミット付きのそれ。賑わう街に煽られ続けながらも、未だに解を見付けられずにいる
…まぁ、簡潔に。ネジへのクリスマスプレゼントが決められない
え、今更?いい歳して?…色々、あるだろうが。その話は一旦置いておこう
ネジに、探られている。何故…何を?先程から本の頁を捲る指、目線は紙の上。その姿を視界に入れないように。俺は畳に寝っ転がりながら、冬特集が組まれた雑誌を拡げていた。そう、もう準備期間を考えれば当日までの猶予がない。何とか欲しいものを引き出せないか、あわよくば雑誌を見た彼から「これが欲しい。」の言葉が落ちないかと。雑すぎる手段を選んだ所である
自然を装うにはいつも通りが必要だ。故に掲載されている絵を見ながら、へぇ。と呟いた所。視線ではない、向けられた意識に気付いた

「クリスマスかぁ。」

一人言。あからさま過ぎたか?いや、自然だった筈。当たり前だが、一人言なので返ってくる言葉はない。そのまま頁を捲る。まずい、雑誌の残り頁が少ない。もう直球で聞いた方が早いんじゃねぇか?そもそもなんで俺は彼に知られないように、彼の欲しいものを聞き出したいんだっけ?その方が当日サプライズ感があるからだな
畳の上を転がりたくなる衝動を抑えきれなくなりそうな時だった。本を閉じて脇に置いた後、ネジが寄ってきた

「欲しい物があるのか。」
「えっ。」

いやそうじゃなくて。とは言えず。俺の反応を不思議そうな表情で見下ろすネジと暫し見つめ合う。そこから更に下、雑誌に目を落とした彼が笑い始めた

「クリスマスツリーが気になるのか?」
「ちっげぇよ…。」

くすくす笑い続けるネジに何だか恥ずかしくなってきて、雑誌を閉じる。それでもどこか変なツボに入ったのか笑いが止まらない彼に、掴んだ雑誌を押し付けた

「あんたはどうなんだよ。」

ぱち。目を見開いた後、雑誌を受け取り、紙をぱらぱら開き。目を通した後、閉じて置いた

「いらんな。」
「………えぇ…。」
「必要な物は都度買うだろう。」

ソウデシタネ、普通に稼ぎは上デシタネ。
悲しい現実に、思わず心の中で片言になってしまう。つまり俺が求めるものは最初から存在しなかったって事じゃねぇか…今までの時間は一体…

「だから、だ。」
「はい…?」

顔の横に手が置かれる。見上げると、ネジが意地悪そうに笑っている

「お前は、何が欲しいんだ。」

探られている
こちらが探っていた時、向こうもまた。同じ内容でこちらを探っていた、なんて

「………は、」
「は?」
「恥ずかしいです…。」
「感想は聞いてないんだが。」



end
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