黒衣の貴族館
□真に想うは職業非公開公爵様
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私は当サイト管理人兼御主人様の、貴夜月家代々の執事を勤めておりますウォルグと申します。
普段はその流隠様に仕えておりますがその他に任された事が御座います。
それは同じ館に住む公爵様であらせられる矢織様のお仕事のサポートで御座います。
と言ってもほとんど流隠様と同じように色々なお世話も流れで行う様に成りました。
何故かと言うと矢織様はとても仕事熱心、仕事の鬼で御座います。
その熱心さがとても心配になって、健康面の配慮する人物が必要だと判断し、私が身の回りのお世話のサポートも申し出ました。
それからと言うもの、寧ろ矢織様と接する機会の方が多い位で御座います。
さて、本日只今のお時間は、もうすぐ正午になろうとしております。
それ故、昼食を届けに参りましたのですが、今日も矢織様は私室から繋がっているアトリエに籠られています。
徹夜の二日目。
一度仕事の虫、いいえ鬼になってしまうと全くアトリエから出て来られないので、正直私は参っております。
熱中のあまり食事、入浴、睡眠を行う事に構わず、ひたすらに黙々と作業に没頭されてしまうです。
『仕事の邪魔になるから出てくる迄声を掛けるな』
そう言っていつも本当に出て来られないのです。
ただ、時折運んで置いた食事が無くなっている事が御座います。
きっと私がいない時に召し上がられているのだと思うと安心致しますが、御尊顔を拝見出来ないのが残念で成りません。
何せ仕事中は一番親しい流隠様や、彼女の使い魔であるみかど様、同じ館の住人同じく公爵である未白様、アオイ様、薫屡様達と一切コンタクトを取らなくなってしまう為、執事の私等余計に煩わしいのでしょう。
ですが私は、もう一人の御主人様に仕えている身、心配するのは当然で御座いますよね。
しかし私の気持ち等気にも止めていらっしゃらない事でしょう。
とても心配で胃痛迄が起こるようになりました。
胃薬が手放せず、消費が激しいので御座います。
「矢織様、どうかご無理を成さらない様にお願い致します…」
食事をテーブルの上に配膳し終えると思わず自分の気持ちを口に出しながら、矢織様の携帯電話に昼食をお持ちした旨を書いたメールを送信致します。
何時もの事ですが、返信は御座いません。
普段の矢織様は懐の広い御方で御座います。
たわいのないお喋りや小さな事でも返信は欠かさない素晴らしい御主人様なのですが…。
どうしても仕事の邪魔だけはされたくない様なのです。
その肝心のお仕事ですが、なんと流隠様も含めて館の住人誰一人存じていないと言うことに大変驚きました。
隠すと言う事は公に出来ないと言うこと。
もしかしたら物凄い悪ど…いいえ、きっと誠実に勤めていらっしゃる筈です。
一体どんな御職業なのでしょうか。
人間誰しも隠されれば隠されるほど探りたくなるもの…大変気になる次第でありますが、どうやら皆様との約束事の様なので執事ごときの私が破るわけには参りません。
それに習い、アトリエの場所も厳重に隠されている様で全く判りません。
確かに矢織様の私室から繋がっているのは確かなのですが。
果たして何処からアトリエに出入りしているのでしようか。
入り口はきっと隠し扉になっている筈です。それらしいドアが見当たらないからで御座います。
やはり其れほど迄に隠されると、執拗に気になってしまうのが人間の性。
致し方ないと思うのですが、実は一度、アトリエの入り口を探してしまった事が御座います。
もちろん残念な事に見付かりませんでした。
こんなことがバレてしまっては私は、もう矢織様のお世話をさせていただく事が出来なくなってしまうので以後は厳禁と心に誓いました。
御主人様を裏切るような真似は二度と致しません。
何時までも私は御傍にいたいのです。
しばらくお部屋に滞在した後、やはり出て来られないので私は矢織様の部屋を後に致しました。