「俺に構うな」
 
そう言うと、獄寺は一服しようと思い席を立った。
禁煙ブームだが、喫煙ルーム位あるだろう。
しかし、引率の先生に見付かっては大事になるかもしれない。
そう思い保険医として同行しているシャマルを呼び出そうとしたが、携帯を開く前にポケットの中で振動が起きた。

画面に表示されたのは、知らぬ番号。
掛かって来るとすればツナや山本が多いのだが、同じ新幹線内に居るこの状況からすると、その可能性は低い。
打ち合わせで席に居ないツナに何かあったのかとも思ったが、先生方の居る客車の方からは、そんな様子は伺え無い。

登録されていない番号からという事で、嫌でも警戒心が高まる。単なる間違いか、それとも何処かのファミリーの者か。
あまり他人と関わりを持たない様にしていた獄寺の携帯が、こんな風に鳴るのは珍しい。
獄寺はデッキに出ると、身構える様な低い声で電話に出た。

獄寺が客車から出て行く時、携帯を手にしたのを山本は見ていた。
誰かからの着信の様であり、ディスプレイを確認している後姿が見えた。
訝しげにしていた様で気になったが、獄寺が携帯を耳に当てた所で客席とデッキを仕切るドアが閉まり、見えなくなってしまった。

誰からなのだろう。
まぁ獄寺にも知り合いはいるだろうが、いつもツナと一緒にいるか一人でいる獄寺しか見た事が無い為、途轍もなく相手が気になる。

お姉さん?まさか…友達?獄寺にそんな風に呼べる人がいるのか…と言ったら失礼かもしれないが、友好的でない獄寺が守護者以外とつるむ姿は想像出来なかった。

「おい、何かあんのかよ?」
「そーだよ、さっきから時計ばっか見ててさ」
「あ、いや…」

カードを持ったまま何かを考え込んでいる様な山本を不思議に思い、一緒にトランプをしていたクラスメイト達が口々に質問を投げ掛けて来た。
否定はしたが、時間を気にして時計ばかりに目を落としている様子からして、何かを気にしているというのがありありと判る。
何でもないと笑って見せた山本だったが、本当は直ぐにでも獄寺の様子を見に行きたかった。

獄寺が客車から出てから、もう髄分と時間が経っている。
十五分以上は過ぎているだろう。
やはり気になってしまいトランプ所では無かったが、「勝ち逃げは許さねー」と言って皆が抜けさせてくれず、結局トランプをずっと続けていた。

それから五分程経ち、ツナが戻って来た後すぐに獄寺も戻って来たが、誰から電話があったのか等聞ける筈も無い。
気軽に聞いてみようと思ったが、「テメーには関係ねーだろ」と片付けられるのがオチだ。

ツナの前で話を始めて、ツナも気になってくれれば聞いてくれるかもしれない。
そうすれば、獄寺も素直に答えるかもしれない。
しかし、「間違い電話でした」等とはぐらかすかもしれない。そうなると、益々怪しい。

こうなると、色々と考えは先行してしまう物で、要らない事をあれやこれやと深く考えてしまう。
到着するまで雑談をしていたが、電話の相手がずっと気になっており、それ所ではなかった。
そして、自分でも気付かぬ内に、山本の中で何かが燻り始めていた。

到着後、待機していたバスに乗り換える。
この日は団体行動で、皆で連なって神社仏閣を見て回る事になっていた。
どうせなら一人でゆっくりと見たいと思っているのは、獄寺だけではないだろう。
そして、事ある毎に点呼を取る事にもうんざりしていた。

点呼の時に居れば、問題は無いだろう。
そう思い団体の輪から外れようとした時、獄寺の携帯が振動を始めた。
ディスプレイを確認すると、耳に当てず、キョロキョロと辺りを見回す。
その様子に気付いた山本は、何を探しているんだろうと、自分も辺りを見回し始めた。

「っ…」

山本の目に飛び込んで来たのは、少し離れた所に居た青年の姿。
年は少し上だろうか。
髪の色は黒の様だが、雰囲気からすると日本人ではない様に見える。
その青年は携帯を片手に、笑顔で手を振っていた。
青年の視線の先に居るのは、獄寺だった。

青年に気付いた獄寺も、手を上げる。
心なしか笑顔に見えるのは、気の所為だろうか。
山本に見られている事に気付かない獄寺は、携帯を切ると教師達の目を盗んでその儘青年の方へと躯を向けた。

「おいっ、獄っ…」

山本は止めようと声を上げたが、それより先に、獄寺は青年の方へと走って行ってしまった。
教師達は気付いていない様子。
連れ戻しに行こうと思った山本だったが、一瞬眼を離した隙に居なくなってしまい、見失ってしまった。

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