粗方、囲んでいた敵は薙ぎ払った。
遠くでも戦闘が繰り広げられていた様だが、それも静かになっていた。
そして、残るは目の前で膝を付いている男一人。

「ひぃぃっ、助けてくれっっ」

見た感じ、幹部でもない格下の者だろう。
どこに傷があるのか判らないが、出血量からしてかなりのダメージを追っている様に見える。
しかし、油断はならない。

「山本、気を抜くな」
「え、でももう大丈夫だろ」
「…あぁ…もう動けねぇよ、だから命だけは助けてくれ」

両膝を地面に付けたまま、その男は二人を交互に見、命乞いを始めた。

「とりあえず、捕虜にすっか」

もう反撃はして来ないだろう。
そう判断した山本は、刀を納め、アジトに連れて帰ろうと男との距離を縮めた。

「待て、山本」
「大丈夫だって」

警戒を解いた山本に対し、獄寺はまだ指輪に炎を点したままだ。
気を抜いた瞬間が一番危ない。
生まれた時からマフィアの世界で育った獄寺は、そう簡単に相手を信用する事は出来なかった。
臨戦態勢を保ったまま、斜め後方から山本を見守る。

「気を付けろよ」
「わーってるって」

そう言いつつ、腰を屈める山本。
男の身柄を拘束しようと手を伸ばし、その腕を掴もうとしたその時。
男の瞳がスイと細くなり、鋭い眼差しを向けた。

「っ!?」

山本の懐まで入っていたその男は、袖口に仕込んでいたナイフを向け前方に切り付けた。
間合いに入られていた山本は、刀を抜く暇も無い。
尤も、抜いたとしても刀の間合いより深く入られており、応戦は難しかっただろう。
鍔で競るのが精一杯だったかもしれない。
それでも、刀を納めてしまったのは不覚だった。

「山本っ!!」

男の手は、真っ直ぐ山本の左胸へと伸びて行った。
ナイフの刃を横に寝かせ、肋骨の間を目掛け伸びて来る。
こんな局面でも確実に急所を狙うとは、流石と言った所。
その時、山本は後ろで獄寺の声を聞いた。

何か叫んでいる。
だから気を抜くなと言ったのに、と後で怒られそうだ。
この時、山本はまだそんな事を暢気に思っていた。

瞬時に躯を後方に倒し致命傷は免れたが、男も諦めずに手を伸ばしたまま飛び掛って来る。
山本もそのまま後ろに数歩下がりナイフを払おうとしたが、その手を逃れるかの様に男の手は上へと向けられた。

ナイフの行方を確認する為、動向をずっと追っていた山本。
しかし下から自分の顔の方に向かって来る刃先のスピードは意外にも早く、回避に数秒遅れてしまった。
その上、今回の任務が予想以上に難しかった事もあり、疲労困憊の躯は思う様に動かない。
足が止まってしまった、その時。

―ザクッ―

そんな音が聞こえた気がした。

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