「…寛明(かんめい)さま」

呼びかけられたのは黒衣に身を包んだ浅黒く彫りの深い男だった。

「なんだ」

座したまま振り向くことなく背中で話を待っている。

「…平が戻りません」

ふむ、と顔だけ振り向き、呼びかけた男を見る。

「心配か…?」

男は無表情にも苛立つように黒衣の男をかすかに睨んだ。

「……約束の時をかなり過ぎました。無下に破る男ではありません…」

その言葉に寛明は静かに笑い、

「わかった、行け…」

と呟いた。その言葉を合図に、すっと立ち上がったのは、細身で色白、秀麗な面の男。寛明と同じく黒衣を纏う有髪の僧体。男はわずかに眉をひそめながら衣づれの音を残し、その場から早々と退出した。寛明はその様子に、また笑う。

「まったく…相変わらずお気に入りと見える」




小林 平(たいら)は夜道を急いでいた。約束を忘れていた訳ではないが、どうにも、“あの場”から動きが取れず、平自身、早々には立ち去り難かっ
た……。

うーん…それにしてもこれはマズイ……。せめて連絡くらい入れておけば良さそうだが……そうした所で、あの人にはどうにも通じないような気がした。なんか…余計に大事になるかも……。平はその様子をつい思い浮かべて苦笑いし、それよりも…と、焦る気持ちに走る速度をさらに上げようとした。その時――

「――おい」

いきなり道の先から声がかかった。平は驚いて急停止する。また…何か厄介事が……?と内心焦ったが、その先の気配と声に馴染みを感じた。もしかして……

「久遠…さん…?」

名を呟くと、暗がりから当人が現れた。困ったように笑いかける。しばらくぶりだが少しも変わってない…。相変わらず綺麗な顔だなぁ……等と呑気に考え、二の句を継ごうとすると、男がものすごい勢いで平に近付く。

「隆道(りゅうどう)と呼べと言っているだろうが…っ!!」

殺気を孕む勢いで凄む隆道。

「あ……すみません…。お嫌いでしたね、この名は…」

平は忘れていたことに慌てて照れたように謝った。

「他に謝ることはないのか…


ジッと見下ろされ、凄みのある声が静かに降ってくる。あ〜きた〜〜。平はジトリと汗をかく。

「おい…!」

冷や汗をかき、笑顔で固まる平に、隆道が一歩にじり寄った。その踏み込みに、平は反射的に勢いこんで頭を下げた。

「…っ!申し訳ありません…っ!!お約束にこんなに遅れてしまい、本当にすみませんでした!…お許しいただけるまでいくらでも付き合いますから…!なにとぞ…!」

平は深々と頭を下げて一気に言った。……ふと、空気が変わる。あれ…?

「……言ったな?確かに聞いたぞ」

「…え…っ?」





続く!(笑)



草葉お題の刺激によって草の妄想から生まれた転生パロです。どうぞ、お気楽にお読み下さい☆
トナエオンリーまでに10題終わるかな〜(汗)


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