もじ

□勘違いしてもいいですか。
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俺はいい大人で。
ここ数年、恋なんざした事ねェ。恋が勘違いだって事は知ってる歳だ。
ましてやするつもりも無かった。


お前に会うまでは。




普段俺達は顔を合わせれば喧嘩ばかり。
思考がどうも似てるらしい。同族嫌悪というやつか。

しかし何だ?
今隣に居るコイツは不機嫌そうにしているものの心配からか、たまに俺の様子を
窺ってくる。

今日俺はたまたまパチンコで勝ち金が入ったからとへべれけになるまで飲んだ。
千鳥足もいいとこなフラフラとした足取りで家に帰る途中真撰組の福長さんに会
ったわけだ。

いきなり目の前に現れた相手に何で?と問おうとしたところで急激な吐気に襲わ
れ吐いてしまった。
しかし相手を避けたつもりが着物の裾に汚物がかかってしまったらしく、何故か
ラブホテルに二人。

何でだっけ?

多分弁償しろとかで逃がさないためで、洗濯するには服を脱がないといけないわ
けで家よりホテルの方が近かったわけで。多分そんなとこだろ。

吐き気は引いた。
だが辛い。

何がって沈黙がだよ!

普段いがみあってる二人が狭い部屋に二人きりって!
しかも普通やるために入るこの場所で…。
有り得ねェ。

もしかしてここのホテル代俺が出すのか?

そりゃゲロを掛けたのは悪かったけどよォ、不可抗力じゃん?勝手に目の前に出
てきたくせに。

「あ…。オメー何であんなとこに居たんだ?」

そういえばまだ聞いてなかったと訊ねた。

「ああ?俺だってたまにゃ酒飲みに出るんだよ」

「へぇ…」

そうか。それだけの事か。

しかし、また沈黙が流れた。
昼間だったら何やかんやで嫌味を言い合ってる気がするのに何故か言葉が出て来
ない。

それはコイツもなのか?

顔は見えない土方に視線を向けても答えが来るわけじゃない。

テストの時とか頭のいいダチとテレパシーが使えたらと昔思った事があるが、も
しそれが俺達に使えたら、俺の気持ちがバレちまう。

酒でなく高鳴る鼓動を。

俺でさえ最近気付いたこの気持ちを。

何度も何度も否定して落ち着かせても沸き上がる感情を。
お前は知ってるか?

いや知られたら生きていけねーよ。

伝えるつもりはない。ただ、これ以上深みにハマりたくない。

女じゃなくても優しくされたら勘違いする。
少しは脈があるんじゃないかと。

いやいやいやいや無いから!
落ち着け俺!

「万事屋…どうした?まだ具合悪ーのか?」

一人考えあぐねて、ぶんぶんと頭を振ったところで、それに気付いた土方が気遣
いの言葉をくれた。

だから、らしくねーんだよテメーはァァ!!

っていつもなら口にだしてるのに俺は、

「ああ…大丈夫だ」

なんて。
オイオイ誰か俺を平素の俺に戻してェ!

「何だよ。らしくねーな」

そう俺の言いたかったセリフを掛けてきたのは土方。手洗いした着流しの代わり
にバスローブを纏った格好でソファからベッドの端に腰を下ろし上半身を寝かせ
てた俺に近付いてくる。

そっと縁に座ると俺の背中を擦られた。

マジでか。

「万事屋おめェ…まだ酔ってんのか?」

俺じゃなく土方が酔ってる気がした。

こんなに優しいなんて、ズルい。

甘えたくなる。
それが出来ない関係に涙が出そうになる。

ああいっそこのまま酔った事にして甘えてしまおうか。

実際まだ酔いが残っている俺はそっと土方の腰に抱きついた。

「な?!万事屋?」

土方の驚いた声が頭上から聞こえたが、しかし土方は俺を振り払う事もなくそっ
と頭を撫でてきた。

オイオイ何で頭だよ。これじゃ、はたから見たら恋人同士じゃねーか。

勘違いするぞコノヤロー。

多分本当の土方は優しいんだ。
だからぶっちょう面でもモテる。

何だか今女の子の気持ちが分かってしまった。

我ながらキモイ。

コイツは…この憎らしい男は突然俺の心の奥に閉まっていた箱をいとも簡単に開
けてしまった。

忘れていた恋心。

叶わない恋だと分かっていながらどうして閉まってくれないのか。

ああ何故この優しい手は俺の物じゃないのか。

傷つくのなら恋なんかしたくないのに。

いつの間にか俺は泣いていた。

震える肩に気付いた土方がまたも驚いたが、何も言わずに相変わらず優しく俺を
撫でる。
髪を。肩を。背中を。そして唇を指先が…。

「え…?」
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