□キリリクetc

笑顔絢爛少年
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確かな威厳と煌びやかさを放つIPC─Ijuuin Pet Company─、世界に誇る大企業、略してIPCを代々築き上げている伊集院家が暮らしているお屋敷の前に少年──熱斗は立ち尽くしていた。

「どこだよ裏玄関…」
「──キミ、伊集院家に用事?」

来るように指定された裏玄関が分からず、途方にくれてうだうだしている所を後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには翡翠の様な瞳に、黒に近い深い紺色の髪を左右に流した青年が立っていた。
格好からして給仕の様な格好をしていたので伊集院家に関係ある人だと思ったのか、熱斗の表情が明るくなる。

「オレ、ここで働いているメイルちゃんに用事があるんだけど…」
「メイルって…桜井メイル?」
「メイルちゃんのこと知ってるの!?」
「うん。彼女は有名だからね」

有名…。
幼なじみのメイルが世界に名だたるIPCのお屋敷で有名と言うことが信じられず、熱斗は瞳を瞬いた。

「それで…キミはメイルちゃんに何の用があるのかな?」
「えっと…オレも良くわからないんだけど、裏玄関に来てくれって言われて…。あと…渡す物があるんだ」
「渡す物…?」
「うん。とっても大事な物だから、おにいさん…悪いひとじゃないと思うけど、ロックマンってひと以外には渡せないんだ」

熱斗がそう言うと、青年は少し考えた後に熱斗の手を取った。

「おいで。裏玄関より、メイルちゃんはこっちにいるはずだから」

そう言って青年に連れてこられたのは休憩所の様なところだった。
シンプルながらもそこはやはり一般庶民の熱斗から見て豪華に感じられた。

「熱斗!」
「メイルちゃんっ!」

そこには青年が言った通り、メイルがいた。
しかし…。

「その格好…」
「えっ?あぁ…熱斗には言ってなかったわよね」

メイルはちょっとばつが悪そうに微笑うと、自身の纏っている布の一部をつまみ上げた。
たっぷりとあしらわれた何段にも重なっているレースが、微かに衣擦れの様な音を立てた。
その服は、母、はる香が見ている人気連続ドラマ「愛と殺戮のデフレーション」に出てくる貴族主人公に仕える給仕の服、俗に言うメイド服に酷似していた。

「私ね、この伊集院家のメイドなの」
「その中でも最高峰の、桜井家のメイド長が彼女何だよ」

酷似も何も、本物さんだったらしい。
熱斗をここまで連れてきてくれた青年がそう付け加えると、メイルは一瞬青年を睨み付けようとしたが、熱斗が居ることを思い出し、微かに微笑を保つことでその瞳を穏やかなものにした。

「…こんな所で立ち話ってわけにもいかないわね。熱斗、こっちに来て」

メイルに誘導されて来たのは休憩室と思しき部屋の奥にあるシンプルながらも、決して安物ではない木製の扉の前だった。
つい、と首を右斜め上に上げてきらりと光る淡い桃色の、光沢のあるプレートを見る。

─maid chief Meiru Sakurai─

最初の英単語こそわからないものの、立派なプレートに馴染みの名前が、メイルの名前が彫られているのを見て本当にメイドで、しかも偉い位置にいると熱斗でも感じ取ることができた。

「何してるの?早く入って」
「えっ、あっ、うん…」

いつの間にか扉は開いていて、中へ入るよう促すメイルに従って一歩、足を踏み入れた。

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