□キリリクetc

好事魔多し
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 科学省の休憩所にあるソファーに、青いバンダナを巻いた少年と、その少年より幾分大人びた緑の髪色の少年がいた。

「………」
「………」
(…どっ、どうしよう…ロックマン早く帰ってこないかな…)

 光熱斗。ただいま言語の壁にぶつかっています。

(ロックマンはPETごとメンテナンスだし…サブPETも無いし…)

 ちらりと隣に座るライカは、普段特に何も考えずに当たり前に接して言葉を交わしていたが、外国人なのだ。つまり、ロックマンもといPETが無い今、言語が違うため言葉が通じなかった。

(うわぁ…どうしよう…ロックマンっ…!)

 ライカは普段から口数が少ない方であるし、きっとこの沈黙にも耐えていられるだろうし気にもならないのだろうが、熱斗は違った。
 炎山と二人っきりになった時もそうだったのだが、熱斗はこういう沈黙が苦手だった。

(うぅっ…ロックマーン…)

 次第に気持ちが下降気味になり、心の中が暗くなっていく。
 熱斗は、はぁーっ、と深く息を吐いた。

「大丈夫か、光」
「えっ?あぁ、だいじょうぶ。ありがとう」

 差し出されたホットシュガーミルクココア味の缶ジュースを受け取ってそれを両手で包み込む。缶ジュースの熱が手のひらにほんわりと広がる。
 温かさにちょっとほっとしてプルタブを引いて一口飲むと、口の中にふんわりと甘さが広がり、とてもおいしい。

「……んん?」

 ちょっと待った。
 隣でホットシュガーミルクココアをぐびぐび飲む隣の彼は外国人なのに、今言葉が通じた気がした。
 気のせいか気のせいじゃないのか確認するために熱斗は試しに彼の名前を呼んでみることにした。

「ラッ、ライカ…?」

 視線を向けられて缶から口が離される。

「なんだ?…もしかして口に合わなかったか?」
「いや、ちょっと甘いけどおいしい…じゃなくって!なんでライカ喋れるの!?」
「オレは元から喋れるが…」
「そうじゃなくって!言葉!ニホン語っ!」
「…あぁ」

 ライカは少し熱斗との距離を縮めると、そっと熱斗の頬に触れた。

「サーチマンが…PETが無くても光と話せるようにと思って勉強した」
「そっ、そうだったんだ……っと言うかライカ、ちょっとくすぐったいんだけど…」

 手が頬から頭へと移動され、ずっと頭をなでられたり髪を梳かれたりしてくすぐったくて、熱斗はへにゃっと笑って首を竦めた。その様子があまりにもかわいらしくてライカを小さく微笑った。
 その時、僅かな光量ではあったが熱斗に向けられたフラッシュをライカは見逃すほど甘くはなかった。

「出てきたらどうだ」
「えっ、何?ライカどうしたの?」

 ライカが視線を向けたその先から、一人の少年が現れた。
 赤いジャケットに黒いシャツ。白と黒の独特な髪型。この鋭い蒼い瞳の少年は…。

「え、炎山っ!」

 伊集院炎山その人だった。
 炎山は観葉植物の影から出てくると、ゆっくりと、しかし確実な歩みで熱斗とライカへと向かう。
 熱斗は嬉しそうにえーんざーん!と呼んでいるが、ライカは途端にその表情を曇らせた。その眉上カットな前髪のためはっきりと眉間に皺を寄せているのがわかる。そんなライカを一瞥して炎山はにやりと笑う。
 若干漂い始めてきた不穏な空気を換気するように熱斗が、よっ、と右手を上げて炎山に挨拶した。

「久しぶりだな、熱斗。前回会ったのは確か…」

 少し体を曲げて熱斗の耳元に唇を寄せ何か囁く炎山。途端に熱斗の顔が真っ赤になる。なんだ、何があったんだ。熱斗はバカっ!うるせっ!と言って炎山の腕をばしばしと叩いている。

(一体何があったんだ…!?)

 軽く炎山に対していろいろな邪推をするライカ。そのアイスブルーの瞳は戸惑いに揺れる。ドクドクと鼓動が早い。

「おい殻。何があった」
「きのこ、貴様の想像に任せる」

 一番最悪なパターン。そう言われてライカの思考は加速する。相手はたかが小学生。小学生ごときにたいそれたことはできないと思うが…。

「炎山もPETのメンテナンス?」
「ああ。光博士に呼ばれてな」
「そっか。じゃあオレ達と一緒だな、ライカ!」

 にぃ、と明るい笑顔を向けられてライカは心中が換気された。この笑顔はオレに向けられている。そう思ったら何があったかなんてすごく気になるけど今はどうでもいい。だって熱斗はオレ達と言ったのだから。
 何が言いたいかと言うと、つまり、熱斗とライカは同じ枠で一線引いて炎山と言うことだからだ。しかしそれもすぐに炎山が中に入ってくるが、とにかくライカは嬉しかった。

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