□エグゼ
□キミと湯気とボクと
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「プラグイン!!ロックマン.EXE、トランスミッション!」
まったく便利な世の中になったよなー、なんて呑気な声音で呟くのはボクのオペレーターの光熱斗くん。
しゅこしゃこと真っ白な泡がほわあわと熱斗くんの茶色い髪を包む。今、ボクと熱斗くんは家のお風呂場にいる。ボクはコピーロイドで実体化して熱斗くんのお風呂のお手伝いをしているんだ。と言うのも、熱斗くんが慣れない料理をしようとして左手の中指と人差し指をざっくりと切ったからだ。
「ねぇ熱斗くん、なんで料理なんかしようとしたの?言ってくれればボクがレシピとか手順とか言ってあげたのに」
「それじゃあ意味が…いや!だって、ロックマンあの時パパのところに用事があっただろ?」
「言ってくれれば時間ずらしたよ。それに…ああ、目瞑って」
「ん…」
傷口に染みるのがいやだから、とビニール袋に左手を突っ込んでいる部分にお湯をなるべくかけないように気をつけて、ざばぁっ、と泡を洗い落とすようにお湯をかける。
「ボクが帰ってきてからやればよかったじゃない。何もボクがいない時に…」
「…悪かったって」
「本当にそう思ってる?」
さばざばとお湯をかけ、泡が完全に流れたことを確認する。今日はボクがやったから明日の熱斗くんの髪はいつも以上にふわふわで触り心地いいだろうな。
「思ってるってば」
「ふーん…?あ、熱斗くん次はばんざーいして」
「んー?─うひゃい!!」
「なっ、何熱斗くんっ?びっくりした…」
「びっくりしたのはこっちだよ!体は自分で洗うからっ」
ボクの手からひったくるようにしてスポンジを取ると、熱斗くんはごしゅごしゅと自分で洗い出した。そんなこと言っちゃっていいのかな?右腕はどうやって洗うつもりなんだろう。
答えはすぐに出た。熱斗くんの体は左側を中心に泡を纏ったところで動きを止めた。
「だからボクが洗ってあげようとしたのに」
「うっ。…うー…」
何意地を張っているのか、熱斗くんはスポンジを見つめたまま唸っている。スポンジじゃなくてボクを見てくれればすぐに洗ってあげるのに。
なんて思っていると、ぴくりと熱斗くんの肩が動いた。ボクに頼むのかな、と思って笑うと、熱斗くんはビニール袋越しにスポンジをぐわしっ!と握ると、右腕を始めとする洗えなかった箇所を洗い出した。
「…………」
「ふぅ。…ん?どうした、ロックマン?」
「いや、なんでもないよ…」
上手く洗えていないところを教えて、一通り洗い終わったところで熱斗くんが不意にボクから顔を背けた。心なし、頬が赤い。体が温まったのかな?湯冷めしないうちに湯船に入れないと。
「なんか、ずるいよな」
「え?」
「ずるいっていうか、その…」
話が見えなくて、ボクはただ熱斗くんをまじまじと見つめた。よく見ると、耳も赤い。これは温まったと言うより、恥ずかしさからくる赤だ。
そう合点がいったが、熱斗くんが何に対して恥ずかしがっているのかわからない。
「…何恥ずかしがってるのさ?」
「っ、その…ロックマンはいつも通りなのにさ、オレだけ裸ってなんか…」
そういうことか。
もごもごと語尾が小さくなっていく中、ずるい、と真っ赤になりながら紡ぐ熱斗くんは、身内の贔屓目無しにかわいい。
「ふふっ」
「笑うなよな!」
「ごめんごめん」
「ったく。こうなったのは誰のせいだと思ってるんだよっ」
「え?誰って、熱斗くんが料理なんかしようとするから…」
そこで、ふと疑問が生まれた。
「なんで、料理なんかしようとしたの?」
「それ、は…」
「熱斗くん?」
熱斗くんはぽりぽりと恥ずかしそうに頬を掻くと、ボクからわざとらしく顔を背けた。
熱斗くんが、照れている。この様子は、ボクの、記憶が正しければ。
ボクは一気に目の前が真っ暗になった気がした。なぜって、だって。メイルちゃんとの関係に触れられたり突っ込まれた時と、同じ、だから。
ああそうか。メイルちゃんに作ろうとしたのか。そう解ると、ボクはなんだかすごく虚しくなって、熱斗くんから顔を反らした。
「…ロックマン?」
「そうだよね。熱斗くんもそういうお年頃だよね」
へ?と呟いてきょとんとする熱斗くんに、もう好きな子くらいいるよね、と言うと、一気に顔が赤くなったり青くなったり。本当にわかりやすい子だ。でもこれで肯定されてしまった。
熱斗くんは、なんだかんだ言ってもやっぱりメイルちゃんのことが、好きだったんだ。
「っ、いつ、から?いつから、気付いてたんだよ…」
消え入りそうな震える声音で熱斗くんがそう言う。いつからって、本当は、ずっと前から、二人がお互いに好きあっていたことはわかってた。だけど、もしかしたら、って思ってたから、今まで言わなかっただけ。