□キリリクetc
□きっと来年も笑い会える
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「まったく…。先を越されたな」
「んー?」
ソファーに腰掛けた熱斗は両足をぱたぱたさせながら隣に座る炎山を見る。くつくつとどこか嬉しそうに笑っているが、何が嬉しいのかわからない。
炎山に淹れてもらったホットココアを一口飲んで、熱斗を口を緩ませた。以前この部屋にはコーヒーしかなかった。
「明日、お前の家に行こうと思っていた」
「え?そんな連絡…」
「だから」
今の光のように連絡をしないで行こうと思っていた、と言うと、熱斗は瞳を丸くして驚いた後に嬉しそうに笑った。
「炎山っ」
「なんだ」
へへっ、と熱斗は笑うと、ぎゅうっと炎山に抱きついた。
「!…バカっ、中味が零れるだろう」
「だって、オレと炎山が同じこと考えてたなんてさ!」
「……ああ」
順番が違ったりお互いの思惑と少しずれたりはしたが、確かに熱斗と炎山は同じことを考えていたのだ。
ふわふわと嬉しい心地ではあるが、炎山は壁に掛かっている時計を見てかなり時間が回っていたことを知って、慌てて熱斗を引き剥がした。ついでに、零されないようにとココアが入っているカップを取ってテーブルに置いた。
「炎山…?」
「お前もう9時30分だぞ!?ご両親が…」
「ああそれなら」
だいじょうぶ、と言ってピースする熱斗。ぱんぱんに詰まったリュックをぺしぺし叩いて笑う。熱斗がジジッ、とチャックを開けると、窮屈でした、と言わんばかりに青いパジャマがぱふっと飛び出した。
「は?」
お前は何を持ってきているんだ、と言おうと炎山は口を開いたが、熱斗がじゃーん!と誇らしげにパジャマを掲げ、先にとんでもないことを言った。
「今日炎山のところに泊まるって言ってきたからだいじょうぶ!」
「なっ!?」
よくご両親が了解したな、とか、寝るところをどうしようか、とか、最早書類をどうしよう、とぐるぐると頭の中を様々な考えや事柄が駆け巡る。
(光とこれからどうやって過ごしたらいいんだ…)
「…炎山オレといるのいやなのか?」
いろいろな事を考えるし、どうすればいいのか答えは出ないけれど、思うことはひとつ。
「嬉しい」
「へ?」
「光と一緒にいることができて嬉しい」
「…なんかお前今日変だな。いてっ」
額をバンダナ越しに小突いてやる。たまには素直に気持ちを吐露したっていいだろう。
ピピッ、と電子音がして赤いPETを覗き込む。ブルースがいつも通りいるが、膨大なデータをどこへやったのか。
『炎山さま』
「ブルース?」
「よっ!ブルース!」
ずいっと熱斗も赤いPETを覗き込むと挨拶した。炎山は熱斗を押しやると改めてブルースを見る。
「どうした?」
『はっ。今社から通知がありまして、残りの書類は他の者が引き受けるということだそうです』
「そうか…わかった。ブルースも休んでくれ」
『…ありがとうございます』
これでひとつ懸念が無くなったわけだ。炎山の考えをよそに熱斗はご機嫌で、リュックの中から様々なものを取り出している。
「何をしている?」
「んー、あっ、ロックマン、ごめんブルースのところ行ってても良いよ」
『え!?あ、いや、ボクは…』
「ごめん炎山よろしく」
ぐいっ、と青いPETを押し付けられて、炎山は嫌な予感がした。そろり、とPETの液晶を覗いてみれば、そこには予想通り、オペレーターとは対照的に不機嫌なナビ。
炎山はどうしたものかと考える。ブルースに押しつけて良いものなのか。でもこのままだときっと光との仲を邪魔されるであろう。そう考えが至り、炎山は自分のPETを握った。
「ブルース、すまない。あとで修復してやる」
『炎山さま…!』
ピッ、と電子音がして炎山のPETにロックマン.EXEが送り込まれた。と同時に熱斗の方も作業が終わったみたいで、リュックから取り出されたものを見てみる。
お菓子お菓子お菓子お菓子、そしてお菓子。テーブルの上にはお菓子の山。食べ物なところが光らしいと言えば光らしい、なんて思いながら炎山は赤と青のPETを向かい側にあるソファーに置いた。
熱斗の隣に戻れば、熱斗はにいっ、と炎山に笑いかける。
「今日は夜更かししようぜ!」
「…ああ」
たわいない会話を交わして、笑って、一緒に過ごして。きっと、ナビ以外の誰かと過ごす大晦日が久しぶりだから、だから、今日はこんなにもおかしいんだ。